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これからの広報PRとは? -株式会社 PR TIMES 鈴木碩子氏と PR Design キルタ氏が語る-

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第四弾では、「届くプレスリリースを考える」と題して、多様化するプレスリリースの現状から、これから求められる広報PR像について考察しています。

(前編はこちら

株式会社 PR TIMES 鈴木碩子氏とPR Design キルタ氏が語る、これからの広報PR

プレスリリースの変化と未来をどう捉えているのか、株式会社PR TIMESの鈴木碩子氏と、PR Design キルタワタル氏へのインタビューを掲載しました。

PRのプロフェッショナルであるお二人がプレスリリースのトレンドをどのようにとらえているのか、今後の広報についての展望を理解するためにも、ぜひご一読ください。

株式会社PR TIMES 開発本部プロダクトチームマネージャー鈴木碩子(すずきせきこ)

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1991 年生まれ、Web メディア「U-NOTE」にて毎月 2000 本以上のコンテンツ企画制作を統括。その後、複数メディアの立ち上げ・運営やヘアメイク等の広告コンテンツの制作を経験し、25 歳で株式会社 ism を設立。スタートアップメディア「BRIDGE」のBlogger としても活動。2020 年に M&A により PR TIMES へジョイン。2021 年 2 月に開発とビジネスを繋ぐプロダクト部門の立ち上げを実施。現在は PR TIMES 開発本部プロダクトチームの責任者として、「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」のミッション実現に日々取り組む。

PR Design キルタワタル

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1993年生まれ。外資系広告代理店にクリエイティブとして所属しながら「yutori」の戦略PR を創業期より担当。2021年5月に独立。広報・PR 活動のデザインやクリエイティブディレクションを継続しつつ、自身でもアートコレクティブ「Ochill」を主催。お茶のスタートアップ「TeaRoom」、蒸留ベンチャー「エシカル・スピリッツ」、高円寺の銭湯「小杉湯」、クリエイティブテックカンパニー「RICHKA」など多方面の企業やブランドに携わる。それぞれのプロジェクトによって役割や肩書きは異なりマルチに活躍。PRSJ認定 PR プランナー。

表現が多様化しつつも、PRはまだまだ広がっていない

RC 総研:PR のプロフェッショナルであるお二人からみて、近年のプレスリリース表現が多様化してきている実感はおありでしょうか。

鈴木 碩子(以下、鈴木):表現の多様化は年々進んできていると思っています。当社の決算でも開示させて頂いているように、PR TIMES からのプレスリリース配信数自体も増え、企業の方々それぞれの表現や趣向を凝らしたプレスリリースを目にする機会も多いです。

RC 総研:そうなんですね。

鈴木:ただ、表現の多様化に関しては、当たり前にどの企業も実現ができている、というものかと言われるとまだまだ伸びしろがある状態だと思っています。

自社らしい表現やアウトプットは、プレスリリースをたくさん研究した企業の方々が本当に努力されて叶っていると思うので、当たり前かと言われると、まだまだ一部のフューチャーが表現が多様化しつつも、PR はまだまだ広がっていないはじまりつつある段階だと思います。

キルタ ワタル(以下、キルタ):中でも「PR TIMES」というサービスはプレスリリースというものを民主化させた一つの革命だと思っていて。

大企業ではなく、スタートアップや、一般社団法人でも様々なメディアへ自社のプレスリリースが簡単に配信できるようになったわけじゃないですか。

だからこそ、各社が自分達ならではのプレスリリースを考えるようになり表現の幅が広がったのはあると思います。

鈴木:すごく褒めてていただいて嬉しいです。(笑)

キルタ:(笑)。すごい事だと思います。アメリカなど海外の報道機関は、信頼性を重要視し、広報通信社を経由したプレスリリースしか受け取らないところが多いです。なので、そういった意味でもプレスリリース表現の多様化は日本独自の面白い文化とも言えるかもしれないですね。

鈴木:そうですね。ただ、プレスリリースが昔よりも多くの人に活用されるようになったからといって、PR が普及しているかというとその限りではないと思っています。

私はよく社内外の PR 講座や PR パーソンかどうかを問わず出会った人に「PR とは何の略でしょう?」と問いかける事をしているのですが、「パブリック・リレーションズ」と返答がある事は体感値で半分程かなと思います。

キルタ:確かにそうですね。

鈴木:当たり前に PR が「パブリック・リレーションズ」である事が認識されるほどに PR が民主化される世界を思い描いています。まだまだ、組織内で 1 人広報さんやナレッジシェアの機会が足りていない現状もあるので仕組みで科学される余地はまだまだあるなと思っています。

すごいプレスリリースほど本質を抑えている

RC 総研:では、表現豊かでステークホルダーから求められるプレスリリース機会を実現するためには具体的にどういったポイントを抑えれば良いのでしょうか?

キルタ:個人的には “文脈” を最も大切にしています。「What から Why」の流れが時代全体としてあるように、プレスリリースだって同じなんですよね。

とりあえず出せば良いってわけではないし、何か新しい発表があるのだとしたら「そこにはどんな文脈があるのか」「なぜそれが生まれたのか」をもっと語った方が良いかもしれない。

プレスリリースは「ゴールでありスタート」でもあるんです。それまでの経緯を形にして発表するという意味ではゴールかもしれないけど、世の中からどんな反応が返ってくるかは、そこでの語り方次第であるという意味ではスタートでもある。

プレスリリースはアクションの一つでしかないので「どう出すか」「どうすればメディアにいっぱい載るか」から考えない方が良いんですよね。すごいプレスリリースほど本質を抑えている。

鈴木:そうですね。一方で、表現豊かなプレスリリースが出てくるようになってきたのはすごく喜ばしいことだと思っていて。PR TIMES って、すごく昔からお使いいただいている方もたくさんいるので、2007 年のプレスリリースとかも残っているんですよ。

キルタ:すごいことですよね。

鈴木:同じ会社さんであっても、今年出されたプレスリリースと何年も前のプレスリリースは、文章量や書き方も違ったり、画像や内包するコンテンツも全然違ったりします。本当に各企業さんが工夫してプレスリリースを進化させているんです。

そういうプレスリリースを見た時に感じるのは、よく言われるところではありますが「プレスリリースはラブレターだ」ということ。

ラブレターを送る相手に、どう送ったら良いのかがきちんと考えられ始めているからこそ、見せ方も徐々に変わってきているのかなと。だから、すごいプレスリリースほど広報 PR の基礎をすごく抑えているんじゃないかなとは思いますね。

RC 総研:わかります。

鈴木:yutori さんのプレスリリースも詩的でめずらしいプレスリリースと話題を呼びましたよね。でも yurtori さんの詩的なプレスリリースは、yutori さんだから実現できる “yutori らしさ” なんですよ。なので、みんな詩的にしたら良いかというと、実は全然違う形になるのが正解になることも多いんだと思います。

キルタ:まさに、その通りですね。

yutoriがZOZOとの資本業務提携契約を発表した際のプレスリリース

鈴木:ステークホルダーが誰なのかをちゃんと捉えて、彼らが求めていることを広聴して、それに対して自分たちはどう発信したら良いかを考えて、それを受け取りやすい形にした結果として多様な表現があるんですよね。

キルタ:広聴は大事ですよね。僕も toC のサービスがメインの企業やブランドにはよく「CS(カスタマーサポート)が最も距離の近いパブリックリレーション」とお伝えしています。

どんなにプレスリリースが話題になっても、メディアで多く取り上げられても、お客さんやユーザーへの対応がよくなかったらダメじゃないですか。最も大切なステークホルダーですよね。

そこで大事なのは 誰からどう見られているかと、お客さんがどう思っているかを知ること。広報やPR を担当している人こそ、現場へ足を運ぶことが
大切だと思います。世の中からの客観視とステークホルダーそれぞれの視点で、その会社らしい文脈や届け方を判断するべきだなと思います。

PRを考える場としての「プレスリリースアワード」

RC 総研:プレスリリースに関する話題でいうと、PR TIMES さんは今年から「プレスリリースアワード」を立ち上げられましたね。

鈴木:プレスリリースアワードは、プレスリリースの発信文化の普及と発展を目指して設立したんです。1 年で最もプレスリリースについて考える日を作って、プレスリリースの役割と可能性の拡大を考えていこうと打ち出しました。

審査委員会で見る観点も、社会性や公共性、共感性とかが入ってきます。なので名称も「PR TIMES アワード」ではなく、「プレスリリースアワード」としています。

RC 総研:そうですね。

鈴木:広告の作品だとスタッフクレジットが出ることもあるんですが、プレスリリースにクレジットとかって出ないじゃないですか。広報担当者ももちろん、そこに関わった人たちにもっと光を当てていきたいんです。

そういう今スポットライトPRを考える場としての「プレスリリースアワード」が当たっていないヒーローみたいな人たちを応援して、社会を前進させていきたいという思いがあって。そこでみんなで PR を語らう機会にもなったらいいなと。

キルタ:他社のプレスリリースを改めて見る機会にもなりますしね。表現よりも、結局はパブリック・リレーションとしての基礎と、その上でのアクションや表現のジャンプが重要なので、受賞作品を見ながら考えるきっかけになるのは良い機会だなと思います。

鈴木:広報だけでなく社内全員で、それこそ “全員 PR” を考える機会にもなったら嬉しいです。それは全員で発信すべきだという話ではなくて、全員がステークホルダーをちゃんと理解できる状態になるということですね。

キルタ:本当にそうですよね、そうだと思う。

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ステークホルダーの立場に立てば自社らしい表現になる

RC 総研:最後に、これからの PR パーソンに向けて、PR においてこの観点は絶対に抜かしてはいけないと思われるポイントを挙げるとしたらどんなものになりますか?

鈴木:やはり「ステークホルダー」と「リレーション」ですね。PR は難しいと思われるかもしれませんが、実は「あなたと良い関係を保つにはどうしたらいいか」を考えるコミュニケーションの話です。

たとえば、家に突然知らない人がやってきて、自分の話をずっとして唐突に帰っていったら、普通の状況だととても驚きますよね。

一同:(笑)。

鈴木:なので「こんにちは」「はじめまして」「私の名前は~」「特技は~」からはじめたらいいんです。

メディアリレーションズも同じ考え方で、読者の方々に対して「有益な情報を本気で届けたい」と考えているメディア関係者の方に、どうコミュステークホルダーの立場に立てば自社らしい表現になるニケーションをとっていくかをシンプルに考える。

教科書通りな事になってしまうかもしれないのですが、嘘をつかない事や、情報を正確にミスリードないように届けるなど、すごくシンプルでフラットな部分がステークホルダーとの関係構築の上でトな部分がステークホルダーとの関係構築の上で大切だと思います。

キルタ:まさにそこですね。「自分だったらどう感じるか」の観点に尽きると思います。

鈴木:逆にそれがあれば、表現を工夫したり、他では見た事がないプレスリリースにチャレンジしても、迷いにくく、楽しんでプレスリリースを作成できるのではないかと思います。

キルタ:企業の中にいると凝り固まってしまうのは仕方ないと思います。日頃から自分たちを PR視点で客観できる意識があれば良いはずで。

プレスリリースというひとつのアクションに捉われず、どう発信するかよりも、なぜ発信するのか、どう伝えるのかよりも、どう伝わるべきかを考えて言語化できれれば、自社らしい表現に繋がるのかなと思います。

そのためにもパートナーとして私たちのような PR パーソンがいるとも思うので、もっと多くの企業やブランドをはじめこの業界に貢献できるよう僕も精進していきたいです。


*上記記載情報は2022年1月時点のものです。
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