小説『出身地』 第二章

二 – 狂獣

私にこの話を教えてくれたのは、両親。その両親も、そのまた上の両親から伝え聞いたという。これは私の祖先が住んでいた地「狂獣」についての話。

私の祖先は、朝鮮半島の北部の出身。来日したのは、日本統治時代のこと。半島にいたときに住んでいた場所は貧しい寒村で、困窮することがたびたびあったそう。そんな寒村が「狂獣」と呼ばれるようになったのは、十九世紀中頃から末頃のこと。日本で言うと、江戸時代の末期から明治時代の初め頃。

ある日その村に、姫那という女が来た。姫那は身ごもっており、その村に住まわせてほしいとお願いしてきた。何もない貧しい村だから、よそ者を食わせてやる余裕など当然存在しない。
「子供がもう少しで生まれる。出産後は、一生懸命働く」
労働力が増えるのであればいいか、という考えもあり、村人たちは彼女を受け入れた。

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