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映画『数分間のエールを』創作者は何を目印にして歩むべきか

花田十輝さん、いくつ傑作青春アニメーションを作る気なんですか?

日々ミュージックビデオ作りに励み、創作の面白さを知り始めた高校生:朝屋彼方はミュージシャンになる夢を捨てきれない英語教師:織重夕に出会い衝撃を受け、彼女のためにMVを作りたいと懇願し、挫折を味わいながら自分なりの創作とエールを送る方法を見つける青春映画

教師と生徒が一歩踏み出すアニメと言えばやはり新海誠監督の『言の葉の庭』が思い浮かびます。
『言の葉の庭』は文学的な作品に対して『数分間のエールは』情熱的でエンタメ満載といった感じです。

約70分の中に創作に対する喜び、情熱、欲望、苦悩、挫折等など創作している人、創作したことがある人なら一度は経験したことがある感情が細胞レベルで呼び覚まされ、気持ちが整う映画です。
創作をしていれば趣味でも仕事でも関係ありません、平等に訪れる感情なので僕も大いに共感してしまいました。

この映画は前半、創作の楽しい面を朝屋彼方、辛い面を織重夕に背負わせて進んでいくため構造がわかりやすく、話が進んでいくうちに「創作をすることで誰かの心を動かしているのだろうか・それによって自分は幸せになっているのだろうか」という創作の本質的なテーマに転がっていきます。

今の時代、技術の進歩とSNSの発達のおかげで創作のハードルは低いです、それは良いことです。
そして、見る側は評価をするという行為のハードルが匿名性が担保されていることもあり、より低くなっていると感じています。
全体的にそれを憂いているわけではなく、評価するということも自己表現なので良いことだと感じます。

問題は創作者はいいねや匿名のコメントに惑わされてしまい、評価する側も時に無自覚に人の心をあらぬ方向に動かしてしまうことです。

気軽に押せるいいね、もちろんもらう側は嬉しい。
しかし、そのいいねは何点のいいねなのか、心から喜んでいいのか、他の人はもっといいねをもらっているから実は自分は認められていないのではないかと比べたことはないでしょうか?

また、匿名のコメントに一喜一憂して、やりたいことが少しずつずれていき、自分は結局何が作りたかったのかと悩んだことはないでしょうか?

逆に応援したいのに、批判のコメントがどうしても目についてしまったり、傷ついてしまったりしてしまったことはないでしょうか?

この悩みは創作を誰かに見せる行為に承認欲求と自己肯定感が付きまわっている限り100%解決はできません。
しかし、この映画を観れば、そして映画のテーマ曲『未明』を聞けば少しだけ心が軽くなると思います。

なんだって良いんだよ
あぁしたいとか、こうなりたいの旗さえあれば
「あなたの自由なんだよ」
この言葉に嘘はないから
行進をとめないでいて

『未明』織重夕feat.菅原圭

物語を少しだけ深堀りします。

朝屋彼方は動画サイトで出会った一曲のMVに夢中になり、アーティストの歌にもっと世界観を広げられるようなMVを作りたいと考え、創作活動を始めます。
彼方が動画サイトを見たり、最初自分でMVを作ってみるシーンはスマホでやっていて時代の進歩を感じました。


彼方が作って動画サイトにアップしたMVは順調に人気が出て、再生数も増えていき、自信と承認欲求を満たしていきます。
そして、彼方はとある雨の日に路上ライブをしている女性の歌声にくぎ付けになります。その女性が翌日自分が通う学校の先生だったことを知り、自分にMVを作らせてほしいと頼み込み、承諾を得ることができました。

生徒に自分のMVを作ってもらうことになった教師、織重夕は大学卒業ぎりぎりまでミュージシャンになる夢を持ち、自分で作詞作曲までして活動をしていましたがそれが人に評価されることはなく、夢を諦めて教師の道を選びました。


そこで、ミュージシャンの夢を諦めようと決意して作った100曲目の曲『未明』がたまたま彼方の耳に入り「MVを作りたい」と熱い想いを伝えられたことで、まだ自分の歌は誰かに届くんだと消えかかったミュージシャンの夢への火が再び燃えあがり、MVの出来と反響次第で夢を諦める選択を延長します。

しかし、彼方が夕へ作ったMVは彼女の心には一切刺さりませんでした。
それは夕が曲に込めた想いとはまったく違う解釈でMVが表現されていたからです。

彼方は寝る間を惜しんで歌詞を考察し、夕が曲に込めた想いを見出そうとしており、適当に作ったわけではありません。
彼方は夕の曲を完全に理解したと思い込み、自分の創作したMVにより視覚的な効果が与えられたことでもっと曲がいろんな人に広まると自信を持っていましたが、作り手である夕に否定されて落ち込み、楽しかった創作活動にブレーキがかかってしまいます。

一方、夕もせっかく誰かの心を動かすことが出来たと思ったのに、自分の魂を込めた曲が違う解釈をされて、彼方に不信感を抱きます。
お互い好きな創作活動をしているはずなのに、誰かの心を動かすことはできず自信をなくし、誰も自分の世界観を理解してくれないと不幸に感じる、創作者の苦悩が良く表現されています。

どうやって彼方と夕は立ち上がったのか、それは是非劇場でご覧ください。

最後彼方の創作したMVが上映されて物語は幕を閉じますが、その映像は素晴らしく、2人の創作への想いのぶつかりが表現されていました。
映像も全体的に印象的です。





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