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夏を迎え撃て!『この夏の星を見る』読書感想文

コロナに感染している訳ではないけど「コロナ(が流行ってる時代)だから中止」「みんな自粛しているからやめておこう」「濃厚接触者の濃厚接触者になったから人に会わないようにしよう」
みなさんはコロナ禍を経験している時、この言葉を一度でも耳にしたことをあると思います。

2023年夏に発売した辻村深月さん作『この夏の星を見る』はコロナ禍に突入した2020年、茨城・東京・長崎(五島列島)にそれぞれ住んでいる中高生たちがコロナという感染症とコロナを恐れる社会に振り回されながらも星を追い夜空を見上げて、ティーンエイジャーの貴重な夏にかけがえのない経験と出会いを描いた素晴らしい物語です。

この物語も冒頭の様なコロナ禍の時代に嫌と言う程聞いた自粛ワードが何度も出てきては登場人物たちを諦めるしかないような社会の雰囲気に押し始めます。
それでも少年少女は諦めず、塞ぎこまずに外に出て、皆住む場所は違えど同じ目的で空を見上げ繋がります。

よく潔い別れのセリフで「どんなに遠くにいても、空で繋がってるから!」
というのがありますが、このセリフはこの作品のためにうまれてきたのではないかと思います……最初に考えた人には申し訳ないけど。

みなさんもこのコロナ禍の時代を過ごしたことでしょう。
行きたかったイベント、経験するはずだったもの、会いたかった人……もう何回諦めて、何を諦めたのかも覚えてないかもしれません。

しかし、今まで感じたことのない喪失感や焦燥感に見舞われながらもその中で何が出来るかというのも考えたと思います。

悩みながら行動したからこそ、普段していないことにチャレンジをしたと思います。だからこそ、この物語の登場人物に共感してしまう。
そんな作品です。

まだ課題である読書感想文に手をつけずなんの作品にしようかと考えている中高生がこの記事を読んでいたとしたら、また悩んでいる人を知っていたら私から提案提案させてください!

是非『この夏の星をみる』を読んでみましょう!
もう感想の書く手が止まらなくなると思いますよ!!
先生が2枚でいいっていってるのに10枚くらい書いちゃうかもしれませんよ!?
さあ、書店へ急げ!!!!

あらすじ

亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も今年は開催できないだろうと悩んでいた。真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、「長引け、コロナ」と日々念じている。円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。

コロナ禍による休校や緊急事態宣言、これまで誰も経験したことのない事態の中で大人たち以上に複雑な思いを抱える中高生たち。しかしコロナ禍ならではの出会いもあった。リモート会議を駆使して、全国で繋がっていく天文部の生徒たち。スターキャッチコンテストの次に彼らが狙うのは――。

哀しさ、優しさ、あたたかさ。人間の感情のすべてがここにある。

https://kadobun.jp/special/tsujimura-mizuki/kono-hoshi/
カドブン『この夏の星を見る』より

余談ですがあらすじの引用をさせてもらっている先である『この夏の星を見る』を出版しているカドブンさんの特設ページめちゃくちゃこだわって作られているので是非そちらも確認してみてください。

茨城の高校に通う女子高校生・東京の中学に通う男子中学生・長崎五島列島の高校に通う女子高校生、この3人の視点で物語が進みます。
3人の生徒はそれぞれコロナ禍の特有の悩みを抱えています。

茨城の女子高生亜紗は顧問の人間性に憧れて、その顧問がいる学校へと進学をしましたが、コロナ禍のせいで部活は自粛となり、さらに天文合宿や複数の学校で合同で開催する『スターキャッチコンテスト』という大会のリアル開催が中止となりました。

五島列島の女子高生円華は吹奏楽部所属で卒業コンクールに向けてひたむきに練習していましたが、コンクールは中止、毎年応援して試合を盛り上げている野球部の大会ももちろん中止。
それだけでなく実家が旅館を経営しており、生活のため家族はコロナ禍でも県外からのお客を招いたことで「コロナを持っているかもしれない人を島に招いている」と学校や近所の人に陰口を叩かれて、肩身を狭くします。

東京の中学生真宙は都内の公立中学に進学したものの男子生徒が学年で真宙だけで、好きだったサッカーは身長が伸びないことを悩み諦めたりと自分の居場所を探していました。
そんな中、コロナ禍になって登校が一時的に休校になったことで学校に行かなくていいと喜んでいましたが緊急事態宣言が解除になり学校が再開したことで不登校気味になります。

このようにコロナ禍によって生まれた悩みと学生特有の悩みが融合してより複雑な感情へと変化されて表現されていました。

コロナがどこにでも存在しているけど地域によっての感染状況や、病床の問題、地方の人間関係などコロナに対する対応や考え方、地域によっての特徴がありリアルな世界観を感じさせます。

特に五島列島に暮らしている円華の、生活のために旅館を開けて経営しなくてはならないけれど、島にいる人たちは高齢者が多く病床も限られているため水際対策を徹底していて、島外から人を受け入れたくないという住民の考えと円華と家族は真逆にいる立場となっています。
コロナに対しては皆と同じ気持ちで対策したい、しかし人を受け入れない対策まですると自分たちが生活できなくなると、人に対してサービスをする仕事をしている人たちはコロナ禍に辛く悩んでいたことを改めて思い知らされました。

「このままでは夏を迎え撃てません」
天文部の恒例合宿がコロナのせいで中止になり亜紗の先輩晴菜がコロナに対する怒りとまだ諦めていないという気持ちをまっすぐに表現したこのセリフがかなりお気に入り。
コロナ禍で様々な事が制限されていても3年間しかない高校生の夏は絶対に邪魔させないと抵抗をする姿にアラサーの私は心打たれました。

そうしてどうしたら夏を楽しめるか全員考えていると、とある些細なメールの学校間のやりとりがきっかけでオンライン上で『スターキャッチコンテスト』という星を観測する大会を開催することになります。

空はどこにでもあってどこにでも繋がっている、また屋外開催で夜空に浮かぶ星を観測するという会話による飛沫も最小限のためコロナ禍にはもってこいの大会です。

茨城・東京・長崎にいるそれぞれ別の地域に住んでいる生徒が、学生でも作れる望遠鏡を制作して同じ日に空を見上げて星を観測する、そんな大会の情景はロマンティックに夜空に酔いしれるというより他の生徒達よりも珍しい星を観測してやろうという情熱で探していているためとても熱く、間違いなくそれは青春ど真ん中と呼べるイベントでした。

この作品私はもう絶対劇場アニメ化決定だと思います。
『スターキャッチコンテスト』で離れたところにいても同じ空を見上げている生徒のシーンは絶対に映像化するべきです。
そのシーンを大きなスクリーンで観たい。
そして、アニメ化になった際は空の描写が印象的な『君の名は』や『天気の子』などの新海誠作品で美術監督をしている滝口比呂志さんに是非手掛けて頂きたいです。
滝口さん、忙しいでしょうがはやくこの作品に気づいてください。

コロナ禍を経験してみつけたもの
コロナ禍に対してネガティブな事なことを言っていたらきりがありません。
しかし、リモート会議中ふと参加者している人の本棚から自分と同じ趣味の本を見つけた時や、顔はあわせているけど直接会っていないからこそ伝えられたことなど、この物語にはコロナ禍でよかったとまでは絶対にいかないもののコロナ禍だったからこそ生まれた出会いがありました。

普通に学校に行って、学校にいる人と部活をして、自分の生活経験から将来を考えているだけでは絶対に選ぶことがなかった、そもそも選択肢としてなかった選択をコロナ禍でリモートで人と会うことにより選択肢が生まれ、実際に選択しています。

その出会いは間違いなくコロナ禍の中で見つけた宝物です。
みなさんもそのような経験あるんじゃないでしょうか?
私もあります。私はコロナ禍で家にいる時間が増えたからこそ物語を楽しむだけではなく自分も創りだしてみたいと物語を書きました。
その創作経験を活かせているかはわかりませんが、挫折したものの今はこうしてnoteで感想を書いて人に自分を伝える活動をしています。

これからは4年前の様ないわゆる普段の生活とコロナ禍で定着した生活どちらも選択できるハイブリッドな社会になって欲しいです。

そして、次新たなウイルスが現れた時はこのコロナ禍の経験を少しでも生かして必要以上にウイルスを恐れず、ウイルスよって選択が狭まれることのない制度や生活様式にして欲しいです。
そのためにみんながコロナ禍で悩んだ経験があるのですから。










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