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学校の匂いを思い出させてくれる映画『少女は卒業しない』

2023年2月に公開された邦画『少女は卒業しない』の映画感想文です。

私は2月に入ってからバビロン、アントマン3、エブエブといったハリウッド大作やアニメ映画Bluegiantなど刺激が多い映画を観て満足感がありつつも少し疲れていました。
そんな時、『桐島部活やめるってよ』や『何者』といったヒット作を連発する朝井リョウが原作の本作品に興味を持ち観に行ったのですが、
「ずっと見たかったのはコレ!」
まさしくこういう映画を求めていました。
個人的には前述した2作品を大きく上回る面白さです。

観た人がこんな高校生活送れたらな~とか、送りたかったな~と思うようなキラキラとした学園モノではなく、親近感のある誰もがキャラクターや学校風景を見て懐かしく思ってしまうような非常に解像度の高い高校生活が描かれており、物語の世界に引き込まれます!

〈あらすじ〉
山梨県のとある高校は廃校が決まり、今年で卒業する3年生が最後の卒業式になるのでした。その卒業式前日から当日までを4人の女子高生の目線で描かれています。
4人の少女は卒業式を明日に控えているにも関わらず、どうやら高校生活について心残りややり残したことがあるようでどうしたら気持ちよく卒業が出来るのかそれぞれが考え、行動を始めます。

〈キャラクター〉カッコは役者名
山城 まなみ(河合 優実)
料理部の部長、地元の専門学校への進学が決まり、卒業式には代表で答辞を読むことになり、注目を浴びる。

後藤 由貴(小野 莉奈)
女子バスケ部の部長、心理学を勉強するために東京への進学を決意するが
地元への進学を決めた彼氏とは価値観の違いで関係が冷め始める。

神田 杏子(小宮山 莉渚)
軽音部部長、卒業式後のバンドライブ運営の責任者。同じ軽音部で中学からの幼馴染でもある森崎という男子生徒を気にかけている。

作田 詩織(中井 友望)
卒業までクラスに馴染めず、いつも図書室に通う。図書室の先生?に秘めた
好意を抱いており、卒業前にも廃校になる図書室の整理を手伝う。

〈感想〉
チョークで黒板に描かれた卒業式までのカウントダウン、特別な日が近づいているのにいつもと同じように始まるHR、式でしか出番がない灰色の長いシートが敷き詰められた体育館と少し緊張感のない卒業式のリハーサル、そんな再現度の高い高校の情景が写りまさしく自分も経験した卒業式前日で、学校にいるようでした。

生徒の会話も凝っている訳でも、特別面白いわけでもないのですが自分が高校時代も誰かがこんなこと言っていたなと、本当にそういう記憶があるのか、改ざんされた記憶が作られているのか分かりませんが、無骨な教室も心地いい空間だと思ってしまいます。

メインキャラクター4人の目線から描かれた卒業式までのストーリーはどれも面白いのですが、全員分取り上げるとキリがないため今回は料理部の山城と軽音部の神田にフォーカスを当てます。

卒業式のリハーサルで答辞を読む練習を始めた山城を見た周りの生徒は、まさか彼女が答辞を読み上げるとは思っていないようで体育館が少しざわつき始めます。また先生から本番前日にも関わらず答辞の挨拶に廃校についても触れて欲しいとの依頼を受け、改めて生活した学校を見て回りたいと歩き始めるのです。
山城が写っているシーンは正面からではなく後ろからがとても多く、彼女がどんな表情でこの学校を見ているのかというのが見ている人にとってはとても気になる演出になっており、山城を演じた河合優実さんの背中から伝わる寂しさや葛藤が自然で素晴らしいです。
また、一見普通の学校風景を描いたシーンに見えて実は大きなトリックが伏せられており、巧妙なミステリーにもなっています。

一方神田は卒業式後に行われるバンドライブの主催を任されていましたが、バンドの人気投票で演奏順を決める企画を、生徒の悪戯な投票のせいで部内の中で実力の評価が低いヘブンズドアというエセV系バンドが大トリを務めることになり、卒業式前日から他の部員からの不満が漏れ始め、積み上げた信頼度が揺らぎ始めます。
しかし、神田は周りの意見を聞きつつも「悪戯で投票された証拠がない」「投票で出順を決めると公表しているから今更変えられない」と部長権限で押し切ります。
そんな揉め事のあった翌日の卒業式軽音部の部室でとある事件が起きます。
ヘブンズドアがライブで使用していたV系の衣装から音源まで、使うはずだった道具がすべて盗まれてしまったのです。
ヘブンズドアのメンバーはまともに楽器も演奏できないため、参加の取りやめを神田に申し出ますが、神田は森崎だけはステージに立てと命令するのです。

森崎、本映画というより今年一番のヒーローです、あの大人気アニメ『ぼっち・ざ・ろっく』に登場するギターヒーローこと後藤ひとりのような孤高のカッコよさがあります。
V系の格好をしていなければ昔のトレンディドラマに出てくる俳優のような色気もあるのですが、トレンディではなく逆に外したキャラをしているのも良いポイントかもしれません。

面倒見の良い神田と、V系にハマり、話しかけられても変なポーズをとる部内では浮いた存在の森崎の関係がとにかく好きです、いわゆる尊い。
はやくこいつら付き合えよ(笑)みたいなラブコメ作品の関係というより少しの会話で充実感を感じ、何か2人にしか分からない物で通じ合っているような清い関係です。

果たして卒業ライブはどんな結末を迎えるのか、そして神田と森崎の関係は?そんな展開に目が離せません。

〈少女は卒業しない、このタイトルの意味とは〉
卒業式がテーマの作品でそれを否定しているタイトル、この意味を考えていました。
卒業式を迎えるまでは4人は少女であるが、卒業してしまったら嫌でも大人になってしまう、最近法改正がされ成人の定義も変わりましたね。
どんなに心残りがあっても、大人になる事や卒業からは逃れられない。だから少女という部分だけを学校に残していくのです。
逆に言えば、登場人物の心に存在する少女の部分だけが心残りとして学校に留まり、それ以外の部分が卒業することで大人になるのではないかと思います。

久しぶりに母校に帰った時には、自分の場所だな~と思う人はいないと思います、みんな懐かしいな~と思ってしまうはずです。
学校は過去になるとまったく意味の違うものになってしまうのです。
それでも、どこかに『少女』の部分は学校に置いてきている。
だから『少女』は卒業しない、というタイトルになったのかと思います。

メインキャラクター4人も最初に述べた通り学校生活の心残りがあります。
学校生活の心残り、それは映画に登場するキャラクターだけではなく誰しもが経験し、もしかしたら今でも持っている感情かもしれません。
ですが学校生活には限りがあります、例えまだ学校生活を送りたいからといって留年しても意味がありません。
卒業したらそれぞれの道があり、卒業してしまったらもう二度とあの時の学校へは戻れません。
高校生活を楽しみたい、友達や大切な人との関係を続けていきたい。そう思っていても時には人を傷つけたり、後悔する選択をしてしまいます。
この理想と現実の狭間の葛藤が上手く表現された映画であり、4人の想いと自分の想いがリンクされるの観ていれば用意かもしれません。

出会いと別れがある春である今是非ご覧ください。











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