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チロルチョコとポカリ

「ご両親との思い出はなんですか?」

多くの人がこう聞かれればまず最初に母親を思い浮かべると考える。

だが、私は違う。

偏屈で、お調子者。頭の回転が速くてみんなの盛り上げ役。飲み会なんかあれば真っ先に呼ばれる陽キャ。でも、結構繊細な部分もあり、落ち込むとめんどくさい。
母は
『あんたは本当そっくりだよ。』
という始末。
正直あんまり嬉しくない。

そんな私が思い出すのは史上最強に鬱陶しいけど誰よりも愛おしい父との1番の思い出。

確か小学校四年生の時だったはず、私と父は2人車に乗っていた。
昔から父は仕事のため遠出をするとこが多かった。なんでかはわからないけどいつも私はそのプチドライブに連れて行かれていた。
という私もそれが嫌なわけではなく、緑のペルシャ絨毯!?!?みたいになってる麦畑、その畑とコントラストになっている雲一つない青空、山頂にまだ雪が残ってる二度と登りたくない斜里岳、車から流れる山下達郎のSPARKLE、父が吸っていたPeaceの匂い。
そんな他愛もない風情を感じることが好きだった。

ある日、いつも通り父と二人で仕事現場へ向かう途中、親子二人とんでもない空腹に襲われた。
痺れを切らした父が親でも殺されたんか?という
勢いで奇跡的に発見したコンビニへ立ち寄った。
無言のまま、己の本能の赴くまま、食べ物をカゴに詰める二人。
あまりの量にレジのお兄さんも若干引いていた。

「合計4500円になります。」

その時だった。
財布を取り出そうとポケットに手を入れた父が微動だにしない。あれ??
そうかすかに聞こえるとその不安は段々と確信に変わり明らかに動揺し始めた。

「ちょっと待ってろ。」

そう言って父は私を店内に残し、車に戻って行った。
レジのお兄さんと私。この絶妙な雰囲気になんと名前をつけようか。
汗だくになって帰ってきた父が発した言葉は

「これ全部戻してください。」

小学生四年生にして絶望という意味を本当に理解してる子供が世の中に何人ほどいるのであろう?
だがしかし、私はその数少ない精鋭たる戦士に選ばれたのだ。不本意ながら。

そう、見事父は財布を忘れてきたのだ。
なんたる悲劇もはや喜劇。
残念なことに絶望していても腹は減る。
哀しみにくれた親子二人は車の中にあった小銭をかき集めまた戦場へと繰り出していく。

それでは聴いてください斉藤和義で「あゝ無情」

レジのお兄さんから受ける同情と憐れみの眼差しに耐え、我々が得た戦利品は、チロルチョコ2個とポカリ1本。
父は会計を終えるまでの間一言も喋らなかった。
これは、怒り狂っているのだな。そう確信した。

我々は車に戻りエンジンを掛けすぐ出発した。
この空気耐えられないと思ったその時、父は爆笑した。涙を流すくらい爆笑した。
こんなにこの人笑うの???と心配になる程父は笑っていた。
この当時私が知る父はいつも怪訝そうな顔をして仕事の鬼となり、「父親」という偶像と化していた。
だからそのギャップに驚いた。
「チロルチョコとポカリってなんやねん!!」
なんて、エセ関西弁を使って爆笑していた。
そんな姿を見ていると私も釣られて笑ってしまった。
小学生の私がこの瞬間初めて父に対し私と同じ感情を持った人なのだと知ることができた。
それがなぜか嬉しかった。
今まで遠くにいた人が実は近くにいたことに気づいた。
もしかすると私が近づいたのかもしれないが。
そのあと二人で笑いながらチロルチョコを食べポカリを分けあった。
あの味はこの先忘れることはないし、あの味を超えられるものに今後の人生において出会うことはないであろう。

これが私にとって一番の父との思い出である。

あー、父の日っていつだっけ?
わかんねぇからチューリップの「青春の影」でも聴こ。

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