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51 鎌倉を歩く  

私が勤務した学校では班ごとに鎌倉の町を巡る「鎌倉班別自主行動」を実施していました。市内では他にも複数の学校でこれを実施しており、名称は「鎌倉班行動」とか「鎌倉遠足」などそれぞれに異なりますが、1年生か2年生で実施されていました。3年生の修学旅行につなげるためです。修学旅行では京都や奈良を班ごとに巡る自主行動が定番になっており、鎌倉でのそれはリハーサルのような位置づけです。以下は「鎌倉班別自主行動」について書いた学級通信(複数回)です。

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鎌倉の良さを歩いて味わう

昨日、鎌倉に行って来ました。11月に行われる鎌倉班別自主行動の下見と寺社へのご挨拶のためです。半日で何か所もまわったのでとても疲れました。でも秋の鎌倉はとても美しく、楽しいひとときでもありました。多くの参拝者が訪れる鶴岡八幡宮は昨日も人でいっぱいでした。宝戒寺では萩が美しく咲き乱れ、報国寺の竹は蒼く輝いていました。鎌倉最古の寺、杉本寺の急な石段は運動不足気味の私には格好のトレーニングになりました。鎌倉宮の境内には「薪能」の舞台が設置してありました。もうすぐ幽玄な舞台が繰り広げられることでしょう。うっそうとした木立の中の覚園寺では心が落ち着きました。花の寺として知られる瑞泉寺は春にまた訪れてみたいと思いました。最後に訪ねたのは妙本寺。境内には杉の大木が生い茂り、あちこちから鳥のさえずりが聞こえてきました。夕暮れの中で響くお寺の鐘の音が半日の疲れを癒してくれました。

どの寺社でもみんなが訪れることを報告し、ご挨拶してきました。そしてどこでも言われたのが次のことです。「お寺はお参りする場ですからくれぐれも騒がしくならないように」「ゴミは必ず持ち帰ってください」「決まりを守って参拝してください」どれもこれも当たり前のことですね。「中学生がいちばん迷惑なんです」なんて言われないようにしましょう。あるお寺では住職さんに「静けさの中で生徒さんたちにはぜひご自分の心と対話してほしい」と言われました。私も同感です。忙しさの中にいる私たちにとってすごく大切なことだと思います。

鎌倉の道は狭いです。でもそんな狭い道を歩いているといろいろなものに出会います。ガイドブックにはない小さなお寺や道端のお地蔵様との出会いも楽しいですし、民家の生け垣や路地の石畳も風情があります。車で通り過ぎたのではおそらく気がつかないようなものにも歩くことで出会えます。私が今回ちょっと歩いただけでも新たな発見がたくさんありました。そして楽しかったです。鎌倉はやっぱり歩く町だなと思いました。本当の良さは歩いてみないとわからないです。

コースづくりはゆとりを持って

コースづくりが始まりました。「有名なお寺をめぐる」「頼朝ゆかりの地を訪ねる」「鎌倉の歴」など各班でテーマを決めてコースを考えていますが、電車の時間や見学の所要時間、移動の時間など様々な要素を考慮しながらのコースづくりは大変だと思います。でも班のみんなで知恵を出し合って自分たちだけのすばらしいコースを作ってください。

チェックポイントに設定されているところ以外はどこをどう巡っても構いません。北鎌倉を中心に廻る班もあれ、鶴岡八幡宮にたっぷり時間をかけようという班もあるようです。見学地を少なめにして一か所ごとに時間をかけようという班もあれば、ちょっと欲張りすぎているように思える班もあります。大船から横須賀線で鎌倉に行く班もあれば、藤沢から江ノ電を使ってのんびり行こうという班もあります。みんないろいろ考えていますね。限られた時間を有効に使えるよう工夫してみてください。コースづくりのヒントをいくつか教えましょう。

①見学時間はたっぷりと
時間を気にしながら廻るのはあまり意味がありません。せっかく訪ねたお寺なのにすぐに出なければならないのではもったいないですよね。何をしに行ったのかも分かりません。どんなに小さなお寺でも20分から30分は必要です。

②移動時間はゆとりを持って
ガイドブックに書かれた「徒歩〇分」などという数字はあくまでも目安です。平均的な時間です。だれもが同じ速さで歩くわけではないですよね。班員の体力や歩く速さを考えて計画を立てましょう。時間に遅れそうだからと走ってばかりいたら楽しめません。特に電車に乗る際には切符を買う(註:当時はまだ交通系ICカードなどない時代でした)時間も必要です。体育祭じゃないんだから最初から走ることを前提に計画するなんてNGですよ。

③見学箇所は欲張らない
目的の場所に着いたと思ったらすぐに出発しなければならないのでは何のために行ったのかわかりません。オリエンテーリングではありませんし、目的地を見つけることが目的でもありません。時間に縛られてゆっくり過ごすことができないのではもったいないです。時間が気になってじっくり見学できないのも望ましくありません。訪れる場所は欲張らずに絞りましょう。

④鎌倉を歩こう
前にも書きましたが鎌倉は歩く町です。史跡をめぐるのは歩くのが一番よいのではないかと思います。渋滞に巻き込まれることもありませんし、電車やバスの時間を気にする必要もありません。それにお金もかかりません。何よりも健康的です。若いみんなには歩くことをお勧めします。思いもよらない風景に出会うかもしれません。さあ、歩きましょう。

大切なのは自覚、責任、そして信頼関係

鎌倉自主行動に向けた昨日の学年集会では意見がたくさん出て活発な話し合いができましたね。話し合う中でみんな意識が少しづつ高まっていったように感じました。話し合いの中心は「行動費用以外のお金を持っていくか否か」という点でした。結果は「持っていってもよい」ということになりましたが、話し合いの目的はそれを決めることだけではありませんでした。みんなの意識を確認することも重要な目的でした。

鎌倉自主行動を成功させようという気持ちがみんなの中にあるかを確認し、成功させるためにはどうしたらよいかを考えてもらうことも集会の目的のひとつでした。これまで準備を進める中で一生懸命取り組んでいた人はたくさんいます。でも、班の中での協力が足りない人、他人任せにしている人がいたのも事実です。そういう人が一人でもいる限りこの行事を成功させるのは難しいです。「自分がやらなければ」という気持ちが全員の中に芽生えることを願っています。

話し合いを聞いていてみんなの鎌倉自主行動を成功させてあげたいという気持ちが私の中で一段と強まりました。生徒がやる気になると先生たちもやる気になります。一緒に成功させましょう。


鎌倉で学んだものは?

鎌倉班別自主行動が無事に終わりました。当日は最高の天気で絶好の散策日和でしたね。そのせいか鎌倉の人出も半端ではありませんでした。朝の鎌倉駅前は雑踏と化しており、みんなと同じようにグループで寺社を訪れる中高生の姿もたくさん見かけました。ガムをくちゃくちゃ噛みながら歩いている生徒やクレープを食べながら歩いている生徒をみてみんなはどうかなと思いながら私はチェックポイントの長谷寺に向かいました。

長谷寺でチェックをしているときは見慣れたサブバッグを下げたみんなの姿が見えるとホッとしました。知らない町で身内に出会ったときに味わう安心感のようなものを感じるのでしょう。そしてきちんとした態度で行動しているみんなを見ると嬉しさとともに誇らしさを感じました。行動中のみんなの態度はとても良かったのではないかと思います。もちろんみんなの行動を逐一見ていたわけではありませんし、自分の学校の生徒という贔屓目があるかもしれませんが、分担してチェックポイントにいた先生たちの話を総合しても、またみんなの感想を読んでもそう思います。服装はきちんとしていましたし、電車の中や町を歩く際のマナーにも問題はなかったようです。ゴミの処理もきちんとできたと評価されています。自動販売機の「誘惑」に負けず約束を守った人たち、途中で足が痛くなった自女子のために見学時間を減らして休憩の時間を取った班もありました。先生の目が届かなくても自分たちでしっかり行動できたみんなには花丸をあげたいと思います。

歴史の息づく町でみんなはそれぞれ何を感じ、どんなことを学んだのでしょうか。

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