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長い歴史を持つ遠隔教育

国土の面積が日本の20倍もありながら人口は約2500万 人というオーストラリア。国土の中には人があまりいない地域がたくさ んあります。都市部から遠く離れた遠隔地は特に人が少なく、 子どもたちの教育にも影響を及ぼしています。教育の 公平性という観点からも国の重要課題のひとつとなっています。

オーストラリアの遠隔地教育の歴史を概観してみましょう。
1901年 :クイーンズランド州で巡回教師による訪問指導開始 1910年代:郵便による通信教育の開始
1950年代:無線による放送学校(School of the Air)開始
  1928年に始まった「フライイング・ドクター・サービス
  (Royal Flying Doctor Service)*」と呼ばれる医療サービス
  を応用して北部準州アリススプリングスで開始
1970年代: 遠隔地教育改革の開始
1980年代: 遠隔地教育の充実
  通信衛星を利用した 遠隔教育の開始
現在: 通信衛星、ICTなどを多様な手段を用いた遠隔教育の
  実施

*フライイング・ドクター・サービスのホームページ↓

遠隔地では自宅の近くに学校がないため学校に通えない子どもがたくさんいます。いちばん近い学校でも数十キロ離れていることも珍しくありません。親元を離れて生活しながら学校に通う子どももいますが、遠隔教育で学ぶ子どもは多いです。また、近くに学校があったとしても小規模で先生が一人しかいなかったり、教材や教具が不足したり、教員が定着しにくいなどという課題もあり、 都市部の子どもとは異なる状況が見られます。子どもたちが 同世代の子どもと接する機会が少ないことも課題です。

大きな課題となっているのが教育格差の広がりです。以下のグラフ(5年生の例)でそれを確認できます。「読み」と「計算」についての結果ですが、濃い青が都市部の子ども、薄い色が遠隔地の子どもの学習成果です。

出所: Victorian Government(2014) Access to Education for Rural Students.

後期中等教育修了率についても以下のようなデータがあります。

遠隔地の子どもの教育を担う重要なもののひとつが「遠隔教育学校(School of Distance Education)」です。かつてはラジオの短波放送や無線を用いた授業が行われていましたが、今はインターネットを利用したコンピュータによる授業が主流です。テキストや課題は郵送されますがインターネット経由で送られることもあり、課題は各自で取り組んで提出します。質問があればメールを送ったりオンラインで先生に聞いたりします。他の子どもたちともネットでつながり、チャットで意見を交わしたりします。最近はテレビ会議システムを使った授業もさかんに行われています。でも地域によって通信速度が遅かったり接続が切れたりすることもあるので完ぺきとは言えません。スクールキャンプなど生徒が集まるプログラムも行われています。

遠隔教育は遠隔地に住む子どもだけでなく、親の仕事などで移動が多い子ども、健康面の問題から学校に通うことが難しい子ども、一時的に海外に滞在する子ども、特別なニーズを有する子ども、さらに妊娠中あるいは子育て中の生徒も対象となります。

ニューサウスウェールズ州の遠隔教育を紹介する州政府のホームページ↓

クイーンズランド州の内陸部にある遠隔教育学校を訪ねたことがああります。州内に7校あるうちのひとつで、歴史が最も長い学校です。

同校のホームページ↓
https://charterstowerssde.eq.edu.au/

授業の様子を見せてもらいました。広々とした部屋の中にブースがいくつも設置され、ブースごとに先生がパソコンに向かって子どもとやりとりをしていました。「課題はできましたか?」「何かわからないことはありますか?」と先生が尋ねるとスピーカーの向こうから子どもの返事が聞こえてきました。

学校の表示
玄関を入ったホール

各ブースで生徒とやり取りする先生たち↓

生徒に発送する教材や資料が置かれた部屋を見せてもらいました。天井まで届く高さのメールボックスがあり生徒ごとに送付する教材や資料を仕分けして入れます。

通学してくる生徒もいます。スクーリングや行事の年に数回行われ、各地から生徒が集まることもあるのでそのための教室や図書室なども設置されています。

図書室の入り口にあるオブジェ。司書の手作りです。

以下の動画で遠隔教育の事例が見られます↓


遠隔教育の歴史を紹介する動画↓

日本ではコロナ禍によりオンライン授業が広がりましたが、遠隔教育に長い歴史を持つオーストラリアから学べることはたくさんあるように思います。不登校の生徒にとっての学びの機会にもなるのではないでしょうか。

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