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オーストラリアの教員養成はどのように行われているか

教員資格は大学の教育学部で
オーストラリアの学校で教えるためにはまず大学の教員養成で教員資格を取得する必要があります。オーストラリアには「教員養成系大学」というのはありません。教員は総合大学の教育学部(科)で養成されます。教員資格は1年以上の教職プログラムを含めた4年以上の課程で取得できます。

教職プログラムは州ごとに認定されます。成果目標、カリキュラム、入学選考、教育実習の要件などの認定基準に則って各大学がプログラムを作り、認定を受けます。プログラムは5年ごとに審査を受けて認定を更新します。

カリキュラムは教科専門科目、教職専門科目、教育実習で構成されます。教科専門科目は英語や数学などの専門教科に関する科目で、教育学部以外の学部と連携して提供されます。なお、中等学校の教師は2教科の専門科目について資格を取得しなければなりません。教職専門科目は、教授・学習(Teaching and Learning)、青少年の成長と発達、カリキュラム開発、教育心理学、情報通信技術、リテラシー、ニューメラシー、先住民教育、インクルーシブ教育などについて履修します。教育実習は学部課程が80日以上、大学院課程が60日以上となっています。卒業前には試験を受けます。 

科目の単位を取得するだけでも大変なオーストラリアの大学では教員資格を取得するのは並大抵ではありません。だから教師になるつもりはないけれど資格だけとりあえず取っておこうという人は少ないと思います。さらに途中でドロップアウトする学生も少なくありません。日本では教育学部に行っても教師にならない人がいますが、オーストラリアでは教師になるつもりもないのに教育学部に入学するというのは不合理的という気がします。


クイーンズランド州で最も長い教員養成の歴史を持つ大学。現在はクイーンズランド工科大学の教育学部となっています。

教育実習の期間が長い

教職プログラムの中で最も大きな割合を占めるのが教育実習です。実習期間は日本よりはるかに長く、インターンシップなども含めて100日近く実施する大学もあります。学部課程では1,2年次から開始され、段階的に積み上げていきます。最後の実習はほぼ初任教員に近い立場で教育活動に関わります。大学には教育実習専門の部署(実習オフィス)が設置され、専任のスタッフが実習校の割り当てなど教育実習に関わる業務を担っています。

教育実習は各科目と連結し、理論と実践が実習を通して融合されるように設定されています。実習の評価は実習校の教師による評価と大学の教師による評価を総合して行い、基準に満たなければ次の実習に進むことができません。評価基準はすべての大学に共通化されているので大学による差は出にくいです。

日本との違いのひとつに実習校の選定があります。日本は学生自身で実習校を選ぶことが多く、母校で実習する人も少なくありません。オーストラリアでは母校での実習はなく、すべて大学が実習校を割り振ります。どの学生にも平等な実習機会を与えるとともに、縁故などによる利害関係をつくらないためです。

大学と実習校の連携は実習オフィスを通じて日常的に行われており、実習校も協力的です。実習校は毎年多くの実習生を受け入れており現場教師の負担が増すことは確かです。しかし歴史的に学校現場で多くの教師を養成してきたオーストラリアでは現在も大学と学校が連携して教師を育てるという認識が広く行きわたっているように感じます。


教育実習オフィスの表示


教員養成に携わるのはかつて学校の先生だった人

大学で教員養成に携わる教師(teacher educators)のほとんどが学校で教えた経験のある先生たちです。私の印象ではかなりの割合ではないかと思います。現職の生成がチューターとして授業に携わることも少なくありません。

教員養成では知識とともに実践力の育成が行われます。それゆえ養成を行う大学教員も現場の実態を把握している必要があります。教職プログラムの認定基準でも「教員養成機関の教師は学校現場で教えた経験があること」が求められています。
日本の教員養成では学校現場の経験を持たない教員が少なくありません。実務家教員が増えていますがオーストラリアに比べると割合ははるかに小さいです。オーストラリアの大学教員に話すと「現場の経験がないのにどうして教えられるのか」と驚く人が多いです。日豪の教員養成の違いのひとつと言えるでしょう。 

教職課程の授業の様子↓

担当教師は元学校の先生です。
学生が授業で作成した調査レポートの一部。

参考


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