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123 教室の破れ傘

校長から注意を受けました。担任をしているクラスの教室に壊れたビニール傘が転がっていたからです。骨は折れており、ビニールは破れています。私が見た限りでは処分してもいいような傘です。

校長は私に傘を片付けるように言いました。そして「傘は昨日からありましたが気がつかなかったのですか」と咎める口調で言いました。教室環境にもっと気を配りなさいということでしょう。

前日から教室の隅に傘が転がっていたことは私も知っていました。でもあえてそのままにしておいたのです。生徒に聞いて持ち主を探すことはできます。壊れているのですから持ち主が現れなければ処分してもよかったかもしれません。でもそうしなかったのはちょっとした考えが私にはあったからです。生徒に気づいてほしかったのです。誰かが傘に気づいて何かすることを期待していたのです。持ち主が気づいて持ち帰るのがいちばんよいですが、他の生徒が気づいて持ち主を探したり、担任である私に報告したりすることもできます。教室に放置された壊れた傘は格好の指導材料になると私は思いました。

傘は誰の目にも触れるところに落ちています。だから気づく生徒はいるはずです。でも、傘はすっとその場に置かれていました。そして校舎の見回りをしていた校長の目に入ったのです。「破れ傘がずっと放ってある。担任は何をしている!」と思ったのでしょう。

校長の気持ちは理解できます。彼の立場だったら私もそう思ったかもしれません。でも私はあえて生徒に気づかせるために傘をそのままにしておきました。もちろんいつまでも置いておくつもりはありませんでした。校長に注意を受けた翌日にはクラスで話をするつもりでいました。「教室に壊れた傘が転がっているけれどだれも気づかなかったの? 気づいたけれどそのままにしておいたの? そもそも傘はだれのものなの?」と聞くつもりでした。

私は生徒に話をするのに2日待とうと決めていました。1日では気づかないことがあるかもしれません。でも2日あればだれかが気づくはずです。でも校長は1日でも教室に傘が転がっていることを容認できなかったのです。

壊れた傘が教室に転がっている状態は決して好ましくありません。小さな見逃しが生徒に悪影響を及ぼすことがあることは私も認識しています。破損された備品やゴミが何日も放っておかれるのは決して良いことではありません。荒れた学校を彷彿させます。校長が私に注意をする気持ちはよくわかります。だから私は言いました。「はい、すぐに片づけます」と。2日間放っておいた理由は言いませんでした。言い訳に聞こえると思ったからです。校長は1日でも放っておいてはいけないと思ったのでしょう。

私の期待に反して傘は2日間同じ場所にありました。残念でしたがこれも現実です。翌日私は生徒に傘のことを話ました。そして多くの生徒が気づいていたけれど何もしなかったことがわかりました。私はそのことをすごく残念に思うと生徒に伝え、身の回りにもっと目を向けて行動してほしいと言いました。私の気持ちがどれだけの生徒に伝わったかわかりませんが、一人でも何かを感じ取ってくれたらよいと思っていました。壊れた傘ひとつだって貴重な思考材料になります。

ちなみにその傘は他のクラスの生徒のものだったことが後日判明しました。




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