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【小説】オンステージ~第2章「なんとなく生きてただけなのに」~

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※この物語はフィクションです。


第2章 「なんとなく生きてただけなのに」


『・・・カタカタ・・・『○○高校 偏差値』・・カタカタ・・』


 はれて先日ニートになった俺は、求人を調べようとパソコンを開いた矢先、出身高校の偏差値を調べている。自分の出身高校の偏差値を調べるのはもはや癖になっている。検索ページには、偏差値と共に素晴らしい進学実績が並ぶ。
俺は中学の時は成績が上位で生徒会長もやっていた。そして高校受験では県内上位校に合格。正直人生のピークはここだったと思う。


 高校に進学した後は同じような偏差値の生徒が集まっているので、その中で俺は特段勉強ができるというわけではなくいわゆる“普通”になり下がった。部活動でもそうだ。中学の時はちょっと運動部で出来たものの高校ではレベルが高く、そこでも“普通”のレベルだった。

 周りから見たらその高校にいるだけでも優秀に思われるが、それぞれのフィールドにはそれぞれのヒエラルキーがある。中学までは勉強でもスポーツでも上位だった俺は、高校ではあくまで凡人だった。そして凡人のふるまい方が分からなかった。中学までは何をするでも注目され羨望のまなざしを受けていたが、高校じゃ誰も注目してくれない。かといって自分から動くわけでもない。最低限のコミュニケーションと交流関係で高校生活を送った。

 そんな生活はつまらなかった。ただただレベルの高い授業を受けて放課後は部活をする。何も一番になれない。そして高校3年生、大学受験を迎えた。周りが国公立や上位私立大学、医学部を目指すのと同じように俺も上位校を目指していた。特に行きたい大学や学びたい事もなかったが、周りがそうするからそうした。そして目指していたレベルの大学は全滅、一つ下のレベルの大学へと入学した。

 そんなレベルの大学でも世間から見たら優秀と言われる。しかし、大学生活は特につまらなかった。ここでは面白いやつ、盛り上げるのが上手いやつ、話ができるやつ、つまりは『コミュニケーション能力が高い』やつが中心になっていくようだ。俺は高校からそうした人付き合いは最低限にしていたため、自分の狭いストライクゾーンにハマったやつとしか話せないし、初対面の人なんてなおさら話せない。だから大抵の人とは何を話していいか分からず沈黙してしまう。そんなことだったから、何が面白いかわからずとりあえず盛り上がってるようなサークルを大学1年の5月に辞めた。それからは塾講師のアルバイトをして、時間があればパチンコや競馬、あとはネットで動画を見ていた。このように普通であればサークルで男女ワイワイ楽しんで彼女作って充実した生活を描くような華の大学生とは正反対の、何も取り柄のない、コミュニケーション能力の欠片もない一人で完結型大学生が出来上がった。

 「・・・はぁ、俺の人生どこで間違ったんだろ・・・」
 1Kの一室でニートが独り言を言う。先生に言われたように勉強も部活動も頑張ってやってきたのに、それなのにどうして・・・。ベランダから外をのぞく。ここから見える人たちはみんな一生懸命生きてるのか?苦労して生きてるのか?努力して生きてるのか?こいつらもみんな俺みたいになんとなく生きてるだろ?なのに、なのにどうして俺だけ・・・。なんとなく生きてただけなのに。

 ダメだ、こんな狭い部屋で一人悩んでても病むだけだ。俺はパソコンで求人を探した。とにかく今は仕事を探さないと。正社員になれる気は一切ない。登録している派遣会社の求人からとりあえず時給の良さそうな求人を探す。とにかく人とできるだけ関わらない事務系を中心に探す。

 周りの同世代が結婚したり子どもが生まれる中、俺は今日を生きるのにいっぱいいっぱいだった。


続く

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