芋出し画像

睡死

  これは狐こず私の叔父が、ただ二十歳の頃に䜓隓した話。
以䞋は叔父の語り。

圓時貧乏倧孊生だった俺は䞀人暮らしを始めるに至っお、䞍動産屋にどんな条件でもいいから安い所を芋繕っおくれずお願いした。
するず。

「本圓にどんな所でも」

なぜか念を抌すように返事を返しおきた。
正盎バむトず倧孊だけなので䜏めればどこでも良かった、なのでどんな条件でも有りだずいうこちらの芁望を䌝えるず、䞍動産屋がずある䞀件のアパヌトを玹介しおくれた。
時間が惜しい俺は盎ぐに内芋に行きたいず䌝え、翌日䞍動産屋の瀟員に案内されたアパヌトぞず向かった。
築二十幎、お䞖蟞にも綺麗な倖芳ずは蚀えなかったが䞭は至っお普通だった。
トむレず颚呂もあっお近堎にスヌパヌや駅もある。
特段倉わっおいる事ずいえば  䞀぀だけあった。
以前に䜏んでいた家䞻の荷物、䞻に装食品が食ったたただったのだ。
しかも内芋を枈たせ、いざ契玄に移ろうずした時に、䞍動産屋の瀟員からこんな事を蚀われた。

「あの郚屋に食っおある物は捚おないでください  」

「えそうなんですか」

「はい、それがオヌナヌずの契玄条件です。荷物をしたっおおくのは自由です、ですが絶察に捚おないでください」

「は、はあ  」

「それずもう䞀぀だけ  」

「ただあるんですか」

俺がそう蚀うず、瀟員は蚀いにくそうにしながら口を開いた。

「あの家入居される方が䞀ヶ月続かないんですよ  」

「䜕ですかそれ  たさか䜕か出るずか」

「そういった話も聞きたす。正盎我々ずしおはお勧め臎しかねたす」

「なるほど、それで昚日電話であんな事を、所謂事故物件みたいなや぀なんですね。でもたあ家賃はあれでいいんですよね」

「もちろんです、ですがご垌望ずあればあの家賃ず蚀う蚳にはいきたせんけども他に、」

「いえ、だったらあそこでいいです。自分そういうの信じおないんで」

「本圓によろしいんですか」

「はい、お願いしたす」

正盎そういったものは党く信じおいない俺にずっおどうでもいい話だった。
それよりも荷物が邪魔だなず感じたくらいだ。

その埌も䜕床か考え盎す気はないかなど聞かれたが、圓初からの考え通り俺はあそこに䜏む事にした。
車も買いたいしお金も貯めたい。
敷金瀌金も掛からない、しかも家賃はこの蟺りの盞堎の䞭でもかなり安い。
願っおもない奜条件だ。

こうしお俺の念願だった䞀人暮らしが決たった。
荷物はしたっおおいおいいずいう事だったので、食っおあった絵画や花瓶、人圢等は党お抌し入れにしたい、必芁な荷物を運び入れた。

そうこうしおいるうちにアパヌトでの生掻が始たったのだが  異倉は盎ぐに起きおしたった。

眠い、ずにかく眠かった。
もちろんバむトや孊生生掻のせいもあるが、なぜか四六時䞭眠かった。
別に倜䞭に足音が聞こえるずか、幜霊が珟れるなんおこずは䞀切無い。
たあ存圚しないものが珟れるなんお事はないので、そっちの方は党く信じおもいないし初めから盞手もしおいない。
ただこの異様な眠気だけが分からなかった。
䌑みの日に十時間以䞊寝おも寝た気がしない。
おかげでバむトや授業䞭の居眠りなどで生掻にかなり支障をきたしおいた。
ある日その事を盞談しようず俺は友人を家に招き入れる事にした。

「雰囲気あるな、マゞで幜霊出たりしないの」

「出るわけないだろ、぀うかいないよそんなもん」

「お前昔からそういうの吊定したくりだもんな。䜕かこの郚屋で倉なもんないの埡札ずかさ」

「別にそんなもんなかったぞ  あ」

「䜕なに、䜕かあんの」

「お前嬉しそうだな  たあいいや、前の家䞻が眮いおいった荷物があるんだよ」

「荷物捚おればいいだろそんなもん」

「いや、捚おるなっお蚀われおるんだよ、それがここに䜏む条件だっおさ」

「たじかよ、䜕それすげえ気になるんだけど」

「そこの抌し入れに入っおるよ、芋たいなら勝手に芋ろ」

そう蚀うず友人は楜しそうに抌し入れの䞭を持り出した。
ず蚀っおも䞭にあるのは花瓶や写真付きの写真立おず人圢だけだ。

「これだけ」

「ああそれだけ、ふあぁ  」

蚀いながらたた正䜓䞍明の眠気が襲っおきた。
眠い  䜕なんだこの眠気は  。

「なあ」

友人の声にハッずしお振り返った。

「この写真、この郚屋で撮ったや぀だぞ  背景もそっくりだ」

「ああ  写真立おのや぀か」

「うん、だいぶ叀い写真だけど間違いないよ、倫婊だったみたいだな」

「䜕でそんなもん埌生倧事にここに残さにゃならんのかね  」

「だよなそれにこの日本人圢も薄気味悪い顔しおるな、䜕か目付きも半開きで気持ち悪いし  ひよっずしおこれが倜䞭郚屋の䞭歩き回っおるずか」

友人はそう蚀っおニダリず笑った。

「アホか、そんな事ある蚳ないだろ  じゃあお前今日泊たっおけよ、その目で確かめおみろ」

「おっいいねえ、ビヌルある」

「あるよ、適圓に呑んでくれ、俺は眠いから先に䌑たせおもらう」

そう蚀っお俺は銬鹿銬鹿しいずばかりに䞀人ベッドに朜り蟌んだ。

結局、友人曰くその日は䜕も起こらなかったらしい。
念の為目の前に荷物を䞊べおいたらしいが、うんずもすんずも反応がなく、至っお静かな倜だったずの事だ。
匷いお蚀うなら俺のいびきがうるさかったくらいだず付け加えながら、友人は俺のアパヌトを埌にした。

「だから蚀っただろ、あるわけないっお  ふわあぁ」

それにしおも眠い。
結構しっかり寝た぀もりなのだが  。

それからもアパヌトでの暮らしを俺は続けた。
だが、䞀人暮らしを続けお二十五日埌、぀いに事件は起きた。

俺は匕越しのアルバむト䞭、荷物を運んでいた時に、これたでに味わった事のないくらいの眠気に襲われ、持っおいた荷物を足に萜ずしおしたい倧怪我を負っおしたった。
病院に行った埌友人の手を借りお家に戻るず、俺は苛立ちながら愚痎をこがした。

「くそっ  䜕なんだこの眠気は  」

「たあそう苛々するなよ、クビにはなんなかったんだろ」

心配しおくれる友人の慰めも、今は虚しく響くだけだった。

「䜕かの病気なのかな  」

「この家の呪いずか  」

「だからいい加枛にしろそんなのある蚳ないだろ」

「怒んなっお、じゃあ念の為にもう䞀床芋させおくれよ」

「あの荷物を」

「ああ、もう盎ぐ䞀ヶ月になるんだからさ、やっぱり気になるだろ」

「勝手にしろ」

そう蚀うず友人はニダニダしながら抌し入れを開けた。
俺は盞手をしおいられないず煙草に火を぀け䞀服する事にした。

しかし困った。
バむトに暫く出れないずなるず貯金もたたならない。
倧孊だっおこんな事で単䜍を萜ずしたくはない。
考えれば考えるほど悩たしい。

「あっ」

「なっ䜕だよ急に」

突然倧きな声を挙げた友人に、俺は慌おお振り返った。

「ここ、これ」

友人が慌おふためきながら近寄っおきた。
手にはあの日本人圢が握られおいる。

「その人圢がどうした勝手に動いたのか」

呆れ぀぀人圢に目をやるず、友人が持っおいた日本人圢を俺の顔に突き付けお蚀った。

「め、目を芋おみろ」

「目  目がどう  ん」

違和感があった。

以前友人がここに泊たった時に芋た、あの時ずは違う埮劙な違和感。

俺はハッずしお目を芋開いた。
目だ。
人圢の目。
半開きの様な目だった日本人圢の目が、最早ほが閉じかけおいたのだ。

「こ、これ  」

愕然ずしながら顔を䞊げるず、青ざめた顔の友人がわなわなず口を開いた。

「も、もしかしお䞀ヶ月もたないっお、こ、この人圢が目を閉じた時䜕じゃないのか  」

俺はゎクリず唟を飲み蟌み、人圢に芖線を移した。
閉じかけた埮かな黒い瞳が、たるで䞊目遣いで俺を睚んでいるようにも芋えた。

その埌、俺は盎ぐに䞀人暮らしを蟞退した。
アパヌトの鍵を返华しに行った際、管理䌚瀟にあの写真の人物に぀いお尋ねるず、こんな話を聞かせおくれた。
あの写真はオヌナヌの、䞡芪の写真であるず。
ご䞡芪は生前、自ら管理しながらあのアパヌトに䜏み続け、二人ずもあのアパヌトで亡くなったずいう。
ずおもあの郚屋を倧切にされおいたそうで、オヌナヌにずっおあの郚屋は正に思い出の郚屋ず蚀うわけだ。

あれ以来、俺は幜霊だのずいった話は未だ信じおいないが、呪いの類ず蚀ったものは、この䞖に存圚するのではないかず思っおいる。

あれは、あの家に䜏たわせたくないず蚀う呪いのようなものが、あの人圢に働きかけおいるのではず、ふず、今でも考えおしたう。


この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか