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名カバー【SWEET MEMORIES】

今年でリリース40周年を迎える松田聖子の代表曲、「SWEET MEMORIES」。ここ半年ほど、自分では意識していなかったが、この曲をちょくちょくリピートしていた。本家もそうだが、カバーバージョンの方をどちらかというと好んで聴いていた。本家の方はこれまで飽きるほど耳にしてきたからね。

そこで今回はオリジナルではなくカバーに焦点を当てて話していこう。
カバー楽曲には面白いところ、リスキーなところがそれぞれある。

面白いところとしては、どんなアレンジになっているか。原曲に忠実なものもあれば、譜割りを若干変えていたり、曲のリズムを変えていたり、元々明るい雰囲気だったのがしっとりになっていたり、逆に派手になってたり、カバーする側=各アーティストの個性がそこに表れる。

何より興味深いのはボーカルが違うこと。この歌を歌うイメージがなかったあのアーティストが、どんな具合にハマるのか。

リスキーな点としては、割と好みが分かれやすいところか。
聴いてみて心に響けばあのアレンジがよかったとか言えるけど、あまりいいと思わなかったらそこで終わり。他人の楽曲を歌うわけだから、どんなにその人の歌唱が素晴らしくても、イメージと合わなかったりアレンジに物足りなさを感じることはあるだろう。逆に技術的にはそこまで上手くなくても、心に響くカバーもある。音楽って不思議。

前置きはこれぐらいにして、松田聖子の珠玉の名曲「SWEET MEMORIES」のカバーを2つ紹介する。どちらも僕はめちゃくちゃ好きだ。

①小山田壮平&イエロートレインver.(2015)

男性ボーカルで歌われるSWEET MEMORIES。アコースティックで落ち着いたバンドアレンジにトロンボーンの柔らかい音がとても似合う。

印象的なのはコードの違い。本来ならB→B7→E→Emになるところが、このバージョンではB→B+5→B6→B7と上昇系のクリシェになっている。結構曲の印象が変わると思いきや、これはこれでハマっており、今回のノスタルジックな雰囲気に非常にマッチしていると思う。

本家のSWEET MEMORIESは女性的な色気や浮遊感を感じる一方で、こちらのSWEET MEMORIESは過ぎた昔を懐かしむようなノスタルジーさが漂う。どこかの田舎で鈍行電車に揺られ、流れる窓の景色をゆったり眺めながら聴くようなイメージ。この歌の主人公は昔の恋愛に未練があるというより、ある程度年齢を重ねていて、仲間内で「あんなこともあったな」と笑って話している気がする。いい意味で脱力していて、奥田民生イズムにも通じる一種の「けだるさ」を感じる。このけだるさ、脱力感が実に心地良いのだ。


②幾田りらver.(2021)

もうこれはベストカバーと言っていいだろうと思う。
イントロから名曲感満載(元々名曲だが)。ウッドベースが良すぎる。原曲はテンポフリーでシンセコーラスから入ってたけど、これは最初からインテンポでボーカル以外の主な楽器が入るってアレンジかな。雰囲気は原曲のふわふわした感じとちょっと違って、割とどっしりめの感じ。でもこれは間違いなくSWEET MEMORIESだと思わせるだけの説得力を、最初の数小節の時点でひしひしと感じる。

このカバーで特筆すべきは、ボーカル・幾田りらの歌唱の素晴らしさ。正直びっくりした。ここまでボーカリストとして完成されていたなんて。一聴しただけで技術的に優れたところが多々あったが、そのどれもが「さりげない」のだ。風のように。この年齢でもうその境地に達しているのがすごい。

歌唱力もさることながら、表現力も本当に素晴らしい。
この歌の主人公もまた、昔の未練を乗り越え、酸いも甘いも全て吸収して、そして今、恋愛に苦しんでいる人を優しく包み込むようにそっと寄り添っている気がする。ボーカルが変わるだけで歌詞の捉え方も変わってくるのもカバーの醍醐味。それにしても上手いなぁ。年齢も当時の聖子ちゃんとそんなに変わらないのでは?

YOASOBIで歌っている時はこんなに素晴らしいボーカリストだったなんて全然気づかなかった。恐れ入ります。


総括:
原曲とは違う角度でアプローチしていたり、アレンジの違いやアーティストの歌い方の違いによって同じ歌詞なのに本家とは別の意味に聞こえてきたりと、こうやって同じ楽曲でも聴く楽しみが無限大に広がるのがカバーの魅力といえる。カバーするアーティストの有名無名に関係なく、色々なバージョンを聴いてみたら思わぬ発見があるかも?

今宵はここまで。

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