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ドイツ語を巡る旅〜語学学校時代編〜

ドイツに来た当初から語学学校のお世話になっていた。語学学生ビザだったので、絶対語学学校に行っていなくてはいけなかった、というのもあるけれど。

1番最初の語学学校の受付で、7を書いた時、お腹の部分にザクっと斜め線を入れられたことを今でも覚えている。数字の書き方が違うんだということだった。たとえば日本の数字の1 は会釈のようにちょっと曲がっているけれど、ドイツの1はカラスの頭みたいに、大きく斜めにひん曲がっている。そして7には斜めの横線が入る。ヨーロッパではみんなそうなのかは知らないけれど、まさか言葉の前に数字を直されると思わなかったので、少々面食らった。

クラスに入った瞬間、私はここの中でキャーッとなった。なんとクラスには日本人の女性がいたのだ!
ドイツ語がわからないのに、ドイツ語で授業されても全くわからないわけで、私はその日本人の女性に、助けてくれのアイコンタクトを必死に送っていた。彼女の隣に座った時、何やら説明してくれたのだが、その直後に日本語で「あー、この子わかってないね。」 と言われて自分の耳を疑った。面食らった。「この子」とは私のことなんであるが、それ、私に言うかな。

今なら分かる。普段外国語で話していると、日本語は独り言と言うスタンスになりやすいのです。誰に聞かせるでもない日本語のぼやき、本音の独り言は、周りの外国人には分からないのだが、もちろん日本語がわかる人や日本人には分かってしまう。彼女の心の声を聞かされた私は、非常に不躾な言い方をされたように感じ、嫌な気分になった。

しかしその後、その日本人女性Yちゃんとすっかり仲良くなり、今でも連絡を取り合う仲だ。日本に帰ってしまっても連絡を取れる人、日本に帰ってたら会ってくれる人は、とてもありがたいものである。

しかし私には嫌な記憶しかないのだろうか、と疑ってしまうぐらいに、嫌なことだけはちゃんと覚えている。時は経ち、私が上級者クラスに行ったときのことだった。かっぷくの良い白いシャツをしたを着た男の先生が、 ベルリンにある芸術大学について一言、「あそこはアジア人が多すぎる。」と言ったのだ。

先生、私みえてますか?どっからどうみてもアジア人なんですが。

私はぽかんとなってしまった。この人は、語学学校で外国人にドイツ語を教えているくせに、そんな差別的な発言をしたのだろうか、それとも私の聞き間違いなんだろうか。モヤモヤした気持ちでいっぱいになった。

ドイツ語に自信がない私は、ドイツ語で聞き返したり、言い返したりするのにも抵抗があり、モタモタしてしまう。とりあえずその先生が嫌で嫌でたまらなくなった。後から聞いた話、そういう発言をちょいちょいする人であったそうだ。聞き間違いじゃなかった。

もちろん、いい先生もいた。私が当時住んでいたアパートのパーティーに、先生が来てくれたこともあった。なんのパーティーかは記憶にないけれど、先生や語学学校のクラスメイト、そして友達がきてくれた時の写真が今でも残っている。飲めないビールを飲んで、顔を真っ赤にしたほっぺたパンパンの自分が、超ご機嫌で写っている写真。

すんごい楽しそうじゃん、自分。

語学学校のクラスメイトは何かしらの絆で結ばれていたように思う。お互い外国に来て、分からない言葉を分かろうとして苦労している者同士の絆。あの頃はあの頃で大変ではあったけれど、学生気分で楽しかったな。

ところで、そんなクラスメイトから、そして先生からも距離を持った目で見られる事件があった。
私が当時通っていたクラスのレベル以上の語学試験に受かってしまったのだ。

当時のクラスの担任の先生には、絶対無理だから止めろと言われていたのだが、私が行こうとしていた大学の入学条件がそのレベルだったので、こっそり受けた。そしたらなんと受かってしまったのだ。ちなみに試験はその語学学校で行われる、公に認定されるレベルテストみたいなものだ。

みんなの視線はなんだか冷たかった。あの子は普段全然喋らないから、全然分かっていないのかと思ったら、実は全部理解していたのか。。という雰囲気だった。

彼らは知らないのだ。日本人がどれだけテスト慣れしているかを。筆記試験の「多分こんな塩梅だろう」という感覚を、椅子にずっと座って磨き続けてきたことを。
筆記の後の口頭試験は、全然ダメだろうとゲンナリしていたが、筆記試験を受けた人達の中で一番よかった場合、口頭試験が免除になる、という謎のシステムのおかげで助かったのだ。っていうか、一緒に受けた人のレベルにも感謝なんだが。

そんなわけで、試験の後、ドイツ人の担任の先生にこんなことを言われた。いつもニコニコしている男の先生は、失礼に聞こえないと良いんだけど、と前置きして、よく日本人についてこんな風に言われるよ、と言った。

「Japaner sind höflich, fleißig und auch ehrgeizig.」

日本人は礼儀正しく、勤勉で、そしてまた野心家だ。

私、野心家なんですかね。
まあ、そういうことにしておこう、ということで、ヘラヘラっと笑って見せた。


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