FanTopと早川書房が期待する『新たな読書体験』とは?両社の鼎談をお届けします。
2023年6月1日に「ハヤカワ新書創刊記念&NFT電子書籍付発売決定!」を発表。
今回は、当日の発表会場内で行った早川書房とメディアドゥ、両社による「新しい読書体験」をテーマにした鼎談内容を大公開!
なぜ早川書房はNFT電子書籍付の販売を決定したのか?今後広がる創造の可能性、目指す未来について...。
3人に熱く語っていただきました。
ハヤカワ新書創刊!NFT電子書籍付版発刊へのきっかけ
新名:まずは「ハヤカワ新書」創刊おめでとうございます。テーマが「未知への扉をひらく」ということでことで私もワクワクしています。
今回ハヤカワ新書とFanTopの取り組みについて、最初にどこからお話ししようかと思ったのですが、「ファーストペンギン」という言葉がありますよね。
山口:崖から飛び降りる最初のペンギンですね。
新名:どういうものが待ち受けてるかわからないうちに最初に飛び込むペンギン。
今回初のNFT電子書籍付の出版ということで、早川書房さんがこのファーストペンギンになってくれた。
そのご決断についてお話しいただけますでしょうか?
山口:「ハヤカワ新書」の創刊にあたって、理念とかはもちろんあるんですけど、私は社内で売上に責任があるポジションなので、何とかして後発の新書でバリューを出していかないといけないな...ということをずっと考えていました。
ちょうどそのときにメディアドゥさんからNFT電子書籍のお話しをいただいたんです。電子書籍をNFT化すると聞いた際に、今までのNFT「特典」とは全く違うものだと思ってはっとなったんです。本文と同じ電子書籍がセットで売れるという意味で。
新書は電子書籍で買われる方も多いので、セット販売は相性がいいんじゃないかなと思いました。
それで社内でコストや、予算を踏まえて議論し、「NFT電子書籍の参入はそこまでコストがかかるものではないのであればプロモーションの一環でやってみよう」という話しをして、ハヤカワ新書のチームを無理やり巻き込んで今に至るという感じです。
話題性もあるだろうということで始めたんですが、大丈夫でしたよね?
一ノ瀬:そうですね。読書体験の新しい形というところに魅力を感じましたし、私としては1人でも多くの読者の方に、この書籍を届けることができればと考えていたので、その可能性があるものであればぜひやってみたいと思いました。
新名: 一ノ瀬編集長は”NFT電子書籍付”という企画を聞いてどう思いましたか?
一ノ瀬:最初にお話を伺った時はよくわかっていませんでした。
やはりNFTに対しては投機的なものというイメージを持っていたので、2次・3次販売されるときに、売値がどんどん高くなっていくもの(アート)じゃないと意味がないんじゃないかなと思っていたんですね。
ただ、メディアドゥさんから色々とお話を伺っていく中で、従来のNFTとは全然違う考え方なんだな、ということがわかりまして、これは新しい取り組みだと思いました。
特典としては当初、今回は書籍の内容に関連する過去の原稿で本になっていないものがあればそれを収録するぐらいかなと考えていたんですけど、著者の皆さんにご相談したところ面白がってくれて、石井光太さんは『教育虐待──子供を壊す「教育熱心」な親たち【NFT 電子書籍付】』のNFT電子書籍に収録する特典として「一ノ瀬さんと対談をやって『元東大生は今回の本をどう読んだのか』という話ができたら面白いんじゃないですか」と。自分からは出ないアイディアだったので、さすがだなと思いました。『ソース焼きそばの謎』の著者の塩崎省吾さんは動画を追加コンテンツとして付けられると聞いて驚いていまして、「動画を付けられるならこういう取材をやりたい」と本の中に登場するお店を訪れて、実際の調理の様子なども撮らせてもらって、非常に楽しんで制作ができてよかったです。
制作期間はタイトで大変だったんですけど(笑)
山口:我々としては、動画、画像、音声、何でも付けられるので、もっとすごいことができるんじゃないかなと思っています。
新しいコンテンツの可能性
新名:現場の編集長として何か温めている構想などありますか?
一ノ瀬:本にめちゃめちゃ長い注釈をつける、1万ページとか付けたりとか。ミステリであれば、詳細なネタバレ解説を注釈としてつけたり。越前敏弥さんの『名作ミステリで学ぶ英⽂読解【NFT電子書籍付】』でNFT電子書籍のみに追加した特典も、ゲラにすると32ページぶんあり、とても濃密な内容です。
紙の書籍なら値段が数十円上がるぐらいの量ですが、NFT電子書籍につけることで物理的な制約を超えられる。
新名:私も文芸編集者だったので、ミステリー作家にマルチエンディングやアナザーストーリーを書いてもらったり...なんか考えますね。どのストーリーが出るかみたいなこともできるわけで...他の人と売買するなり交換するなりして書籍をコレクタブルするみたいな試みがあっても面白いですよね。
一ノ瀬:全部集めると特別なストーリーが手に入ったりなんてこともできますよね。
新名:最後に本当の真相がわかるみたいな...著者の方は大変でしょうけれど、挑戦する方がいれば面白いですよね。
山口:NFT電子書籍の登場というのは、著者やクリエイター、出版社に対するある種の、挑戦なわけです。ひとりで小説を書いて、映像も作れる人もいるので、NFTのテクノロジーを活かして、物語をどんどん拡張できる可能性があると思います。だから創作の幅を広げるという意味でも、我々も共に試されているなという感じはありますね。
新名:新しい作家さんが出現しそうですよね。我々がこれまでずっと伝統的にやってきた出版とは違う表現をする方が出てきたり。
山口:そうですね、欧米とかだと「トランスメディアストーリーテリング」といった紙の本とオーディオブック、映像を組み合わせたりして、大きな物語を語ろうみたいな動きもあってNFTは向いてますよね、それらをセットでできるわけですから。
また、プロモーション面でも、ブロックチェーンというのは要は取引記録ということが活用できると思います。
誰が何を持っているのか、過去に何を持っていたかもわかる。ある種、読者をトラッキングできるんですね。つまり今回ハヤカワ新書を買ってくれた人たちにお知らせをしたり、いろんなことができる。
一ノ瀬:ハヤカワ新書でいうと、レーベルの作品をNFT電子書籍で3冊とか5冊とか読んだら何かプレゼントがもらえるとか、ハヤカワ新書のコミュニティに入れるみたいな、そういうことができても面白いですよね。
新名:そうですね。「FanTop」はプラットフォームの名前が表しているとおり、元々はファンの集う場所ということを前提で考えていましたので、作品のファンが集まって色んなことができたらと思ってます。
電子二次流通市場への思い
山口:NFT化された電子書籍の最大のメリットは何かというと、二次流通市場で、スマートコントラクトの条件に従って取引がされて、(FanTop上で)権利元へも還元される仕組みが作れることですね。
新名:二次流通について著者の皆様の反応はいかがでしたか?
一ノ瀬:ネガティブな反応がなかったというか、著者の方はどちらかというと、どのような特典つけるかとかそのあたりへの意見が中心でしたね。
新名:早川書房内ではどうだったのでしょうか?
山口:最初、NFT電子書籍の話をしたとき、社員の中でも若い人、勘の良い人たちは「おっ!」となったんですが、言葉を選ばずに言うと年齢高めの同僚たちは「ポカーン」という感じではあったんです。しかし二次流通の話しをしてようやくピンときた人が多かったですね。
言葉が悪いかもしれませんが、出版社は作った紙の本が転売されていく中古市場を指をくわえて見ているしかなかった。市場自体の否定ではありません。ただ、NFT電子書籍の場合は我々に利益が還ってきますよ。と言ったときに先輩たちの「ギラり」とした、それなら...という反応はありましたね。
新名:中古市場だけで年間数百億円の規模になっていますからね。これまでは著者にも出版社にも還元はありませんでしたから。
ゲームチェンジャーとしての挑戦
山口:NFT電子書籍は著者に利益が還元され、取引条件も出版社の方である程度コントロールできる仕組みにできるので、ステークホルダー全員に意味がある取り組みなんじゃないかなと思っています。しかも国産プラットフォームでやれるということがゲームチェンジャーとして機能させるにはいちばん重要かもしれない。
我々から6月のハヤカワ新書5タイトルを各1000~1400部ほどはNFT電子書籍付版として発売する予定なんですけど、そういうタイトルがマーケットに1000タイトルぐらいあれば、100万冊を流通させられる。ある程度の規模の二次流通市場が立ち上がれば取引が活発に動き出すと思っています。
このNFT電子書籍市場が育つかどうかについては、早川書房とメディアドゥだけでは成しえないと思います。NFT電子書籍が一定数市場に出回り、それを買いたい、売りたいという読者が増えていくことで初めて機能するので、この話を聞いて面白いと思った出版社にはぜひ前向きに考えてみてほしいです。
新名:私は今の状況なんかは電子書籍の黎明期を思い出しますね。
海外では、例えばドイツの出版業界っていうのはまだまだ小さな電子書籍という市場に対して、紙の書店、取次、出版社が最初から関わっていたんですね。そして「tolino(トリノ)」という電子書籍の共通プラットフォームを作った。この書店を業界みんなで育てて、Amazonのkindleに対抗するまでの規模に成長させていった。そのような歴史があります。
一方その頃日本では、それほど多くの紙書籍のプレイヤーたちが、電子書籍には積極的に関わらなかった。私も当時出版社で働いていたのですが、日本ではどちらかというと電子書籍は紙書籍の敵だとみなされていたんです。その結果何が起きたか。現状のように電子書籍のマーケットの美味しいところというのは元々紙に関わっていた出版業界のプレイヤーではなく、外のプレイヤーに持っていかれたりして、私の中では非常に苦い体験として残っています。
今まさにその黎明期にあると思うんです。早川書房さんのような、創業78年の老舗の出版社さんがファーストペンギンになっていただけたっていうのは、これは電子書籍の黎明期とはちょっと違うぞ、やっと出版業界も目覚めたぞ、という感じがして...いかがでしょうか?
山口:我々は目覚めたかもしれませんが、業界が目覚めるかどうか...今日の反響次第ですね。損をする取り組みじゃないとは申し上げたい。たいしたリスクを犯さなくても、新しい市場が創出できるなら、みんなでやりましょうよという気持ちです。
新名:ありがとうございます。早川書房さんがファーストペンギンとなって開いてくださった"未知への扉"をくぐって、新しい出版の世界にこれから入っていこうという皆さんが、たくさん続くことを願っています。
<登壇者・詳細>
● 山口 晶 (株式会社早川書房 執行役員)
● 一ノ瀬 翔太 (株式会社早川書房 書籍編集部 課長)
● 新名 新 (株式会社メディアドゥ 取締役副社長 COO)
今回の取り組みについての詳細はこちらの記事を是非ご覧ください👇
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