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老いと恋と金『遅い男』J・M・クッツェー/ノーベル賞チャレンジ

でも、ある年齢を過ぎれば、わたしたちはみんな多かれ少なかれ、片脚をなくすようなものだと思う。失われたあなたの片脚は、なにかの兆候だか象徴だか症候だか(中略)まあ、そういったものにすぎないのよ、年老いていくということ、年老いて面白みをなくしていうということの、ね。

J.M.クッツェー『遅い男』

この「なくしていくこと=老い」というのが本当に身にしみる。
私もある事情で歩行能力が怪しくなってから、突然30歳ぐらい年を取った気分になった。
彼の場合は事故で突然のように見えるけど、ずっと前から老化は始まっていたんだよたぶん。

交通事故で脚を失った高齢独居男性が主人公で、既婚の介護士の女性に恋をする。気を惹くために彼女の息子の高額な学費の援助を申し出る。

性欲寄りの恋を金でなんとかしようとするなんて、老人でなくても醜い気がする。介護士にとっては非常に気持ちの悪いものだけれど、この人にとっては恋ぐらいしか楽しみがないんだよな。だからといって何してもいいわけじゃないけどね。

それとは別に、主人公につきまとう謎の高齢女性コステロ。この女性がけっこうハッキリ言うというか痛いところをついてくるんだけれど、彼女の存在が特殊。
なぜ、こんなに主人公の身辺に詳しいのか? 本当に作家なのか? そもそもどこから来たのか?
解説によるとコステロは作者の分身で、メタ要素とかポストモダンとかそういうものらしい。

そして、若い介護士を諦めてこの女性に行けば恋愛ができるのに、断固拒否。
残りの時間が少ないからこそ、そこそこでの妥協よりも高嶺の花を目指すものなのか。言ってもムダだとは思うけれど、恋をされた側の迷惑も考えようよ。

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