見出し画像

コンプレックス 13

■コンプレックス13

飯田橋は病院や出版社が多い土地柄だったが、中小企業も多くあった。
そのような企業が、会社の集まりでちょっとした宴会でコンパートメント利用することもあったのだ。

一人5,000円込々で15人くらいの着席スタイルなんていうカジュアルなリクエストだってあるのだ。

ゲストは、料理が卓上にプラッター盛りで並んでいて、それを適当につまみにしながら飲みたい。
そんなリクエストである。

予算が予算なので、そんな大層なものも出せないが、同じ地下にはパブ・レストランもあった。
そのパブのメニューには春巻きやらシュウマイやら、スパゲッティやらカジュアルなメニューが
沢山あったので、そこから単品で持ってきた方がいいくらいでもあった。

ボクは中村ムッシュに会の趣旨、料理価格、レイアウトを明記してメニュー依頼をした。
出来上がってきたメニューは、「何じゃこりゃ!?」って感じであった。

料理を卓上に置くのでは無く、別に料理コーナーを設け、そこに大きな手つき
プラッターに盛り付けたローストした仔羊、ローストした鴨、マッチ棒のように揚げたポテト、
そしてコンソメスープ・・・・・・

オイオイ、こんなんでは会の趣旨とマッチしないだろうが!!
若かったボクは切れた。

でも流石にすぐに中村ムッシュに直接戦いを挑みにいくことはしなかった。
パブ・レストランのシェフに経緯を説明したのだ。
パブのシェフは私の言わんとすることを理解してくれて、
自分も一緒に行って説明してやるよ…とのこと。
よっしゃ!と二人で中村シェフを訪ねた。

話は超難航した。
何度説明しても、そんなスタイルは有り得ません!というのだ。
有り得ないことは無いのだが、中村ムッシュの中では有り得ない!
ということなんだと思う。

この時はほんとにまいった。
もうどうなってもいいから「作ってください!」と言おうとした瞬間に
パブのシェフがボクを引っ張った。
「帰ろう…いいから帰ろう!」と引っ張ったのだ。

なんか極めて不完全燃焼であったが、パブのシェフの顔を潰すのも不味いと思い
一緒に帰ってきた。

「あ~も~危ない、危ない・・・笹川さん 切れるとこだったでしょ!?」
と、言われた。実際、その通りだった。

もうちょっとで、ユニフォームを脱いで床に叩きつけていたかも知れない、、、、

実際、威勢のいい奴は他にもいるもので、メインレストランでウェイターを
していたM氏は、あることでキッチンに対して(多分中村シェフに対して)切れてしまい、
「冗談じゃね~ぞ!」とほんとにユニフォームを床にたたき付けたのである(聞いた話…)。

彼はほどなくして、他の部署に異動になった。これが世の中である。

パブのシェフは流石に大人で、その会のメニューを
「今回は私が対応します!」とムッシュにうまく伝えてくれた。
そして自分が作ってくれて、事なきを得た。

ボクは涙が出る思いであった。
そのシェフK西さんは、その後エドモントのコーヒーショップ「ベルテンポ」の
シェフとして活躍していたのであるが数年前に辞めたそうである。
自分でお店でも出したのであろうか。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

よろしければサポートをお願いします。 いただいたサポートで「タコハイ」を買いたいと思います!サンキュー!!