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レーナ・ラウラヤイネン著 荒牧和子訳『魔術師のたいこ』について

この本は、ラップランドに住むサーメ人(サーミ人ともいう)の間で語り伝えられてきた12篇の物語、民話がおさめられた本です。サーメ人は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド北部、ロシア西北部にまたがる地域で、国境が定められる前から、自由に移動しながらトナカイの放牧をして暮らしてきた先住民で、周辺のヨーロッパ諸国とは異なる固有の言語と文化を持っています。

サーメ人に興味を持ったのは、バーニー・クラウス『野生のオーケストラが聞こえる』という自然のサウンドスケープについての本を読んでいてサーメ人のことが書いてあったからです。バーニー・クラウスによると、西洋の音楽は、何千年もの間、自然のバイオフォニー(その土地・場所の生態系全体の音)をインスピレーションの源としてこなかった、自己言及的なものであるが、それとは逆に自然のバイオフォニーと対話的な音楽として、様々な民族音楽を挙げています。サーメ人の歌うヨイクという音楽もその一つです。

『魔術師の太鼓』の数々の美しい民話は、バーニー・クラウスが言ったことを裏付けるもので、人々は、自然の風や木や山と対話するためにヨイクを歌ってきたのでした。そして、太鼓という楽器は、人々の心の歴史である民話、物語をたくさん貯めてある身体でもあり、物語の語り部でもあるのでした。素敵な貴重本でした。


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