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夕食事情最前線

残業を終えて帰宅すると、カミさんも残業を終え帰ってきたばかりだったようで、リビングのソファーでグッタリしている。
そんな時に

「あれ? メシは?」


などと間違っても口走ってはならない。
口走り終わらないうちに鉄拳制裁を喰らうのがオチだ。

しばらくカミさんの話を大人しく聞く。
内容の8割方は今日いかに仕事が忙しかったか、そのせいでいかに疲れているか、である。そして最後に出てくるのは決まって大体「ご飯作るの面倒くさい」の一言。これは言外に「オマエが作れ」と言っているのだと悟るのに時間はかからなかった。

俺も残業してきたんだけどな・・・などと思っても決して口に出してはいけない。口に出し終わらないうちに記憶が飛ぶハメになる。
迂闊なことを口走れば速攻SNSでチクられて「ダメな旦那」のレッテルを貼られる昨今でもある。実家へ帰らせて頂きます!という言葉を飲み込んだことのある男性諸氏も多いことだろう。

耐えて忍ぶことが賢明だ。

我が家は共働き。
こういう時は外食で・・・と言いたいところだが、「こういう時」が多過ぎるのでいちいち外食していたらいくら金があったとしても足りない。

冷蔵庫から食材を出しながらメニューを考える。
考えると言っても酒飲みの私が作ると大体居酒屋メニューになってしまう。

厚揚げはトースターで焼いて、大根おろし、ネギ、かつおぶしを乗せてポン酢か醤油で食べよう。
卵とニラはシンプルにニラ玉でいこう。
鶏のムネ肉はレンジでチンすればチャーシューができる。
あとはサラダがあれば文句はあるまい。

食への志が低いカミさんは、
「ワタシ、別に白米と塩だけでもいいんだけどなあ」と、ここへ来てある意味暴力的ともとれる一言を繰り出してくる。家族4人で白米と塩だけの食卓を囲む光景をイメージしてみたが涙で前が見えなかったのはここだけの秘密である。

育ち盛りの子どもを二人抱えている責任もある。白米と塩だけとはいくらなんでも・・・と言いたいところだが、口に出した瞬間に太ももの側面に膝蹴りを入れられるのがオチなので止めておいた方が利口そうだ。
とりあえずポケットに入れていた私の右手が一段と強く握られたことだけお伝えしておく。

黙って食事を作ろう。
飛んできたボールへ向かって腕を突き出してキャッチしても痛いだけなのだ。衝撃を吸収するように腕を引きながらキャッチする。
カミさんの言葉が飛んでくれば私が引けばいい。
泣きながらでも引けばいい。
「あなたっていつもそう!」って泣きながら引けばいい。

閑話休題

ある日は仕事で本当に疲れて面倒で、とりあえず冷凍うどんを鍋にぶち込み普通に茹でて、あとはスーパーで半額シールが貼られていた天ぷらを再度揚げ直し、「丸亀製麺だと思いなさい」と言って釜揚げうどんを出したら好評だった。

単純な私は「美味しい」と褒められて素直に喜んだ。
そのうち残業終わりで食事を作ることも珍しくなくなった。
気が付けばキッチンに立って食事を作ることも大して面倒だと思わなくなっていた。(ビール呑みながらだから余計に)

そんなこんなで数年経つ。

最近では帰宅して着替えると大体キッチンでビールをまず一杯。
そしてカミさんに言う。

「今日は何作ろうか?」


これを出来た旦那だと思うか、飼い慣らされた成れの果てだと思うかはあなた次第だ。

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