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【超短編】工作

薄暗い部屋の中、僕の世界は生まれた
「かんせい!」という声が始まりを告げた
初めに見たものは、幼く無垢な子の笑顔
僕をめいっぱい持ち上げて
それはそれは、嬉しそうだった

目の前にはいつも、動く大きな鉄の塊があった
「可哀想に」と憐みの目を向けられていたが
僕にはその意味がわからなかった

彼が動くときには、必ずシャッターが開く
僕が知っている世界は
この部屋と、そこから見える景色だけだった

彼は、いつも外の話をしていた
僕はそんなものに興味がなかったのに
話をしては、僕を「可哀想」と言う
僕からすれば、
体内にヒトが入らないと動けないほうがよっぽど可哀想だ
もっとも、そんなことは言わなかったけれど

勝手に産まれて、こんなつまらない日々をもらって
僕はなんだろう
そう考えるのが常だったが、
毎日一度、あの子が頭を撫でてくれる
それだけで十分な気がした

クルマは今日も話している
いい加減、飽きてはくれないだろうか
僕が何もわからないのが、そんなに面白いだろうか
あの子は、いや、あの人は今日も頭を撫でてくれる

ある日、あの人は分厚くなった手で僕を持ち、クルマ(だと思う)に乗せた
その先には、聞いたこともない景色があった
どこまでも広がる緑と青、空飛ぶ白い何か
そして…

あの人は、僕に乗って、木の枝を程よく切り落とす
終わったら、いつも以上に丁寧に、優しく、
長く、たくさん撫でてくれる
少し手を伸ばせば、あんな枝届くだろうに
と、今日も僕は微笑む
ごつごつとし手が頭を撫でるのを、また今日も待っている

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