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俺脳筋?!税務署員の新人研修!


 僕は単純な人間です。授業はつまらないし、部屋も寒い。ベットは硬くて眠れない。「そうだ、運動すればいいんだ。ストレス発散になるし、寒く無くなるし、眠れるはずだ」と気がつきました。
 その日から猛然と、アホみたいに運動をするようになりました。敷地内には複数面のテニスコート、トレーニングジム、温水プールがあり、無料で使えます。ケチな僕は無料と聞くと「使わなければ損だ」と考えてしまいます。ジムだけとか、テニスコートだけ、だとすでに損をしている気がしてきます。だから激しく筋トレをした後にクールダウンにプールとか、みんなとテニスをやった後に1人で筋トレとかエアロバイクとか、とにかく使い倒しました。
 僕が毎日のようにジムや温水プールを使っているのに、他の同期は何百人もいるのにほとんど使う人がいない。みんな何してんだろう?恥ずかしいのか?運動が嫌いなのか?無料なんだぜもったいない、もったいないお化けが出るよ、そう思いながら毎日ハードにトレーニングをしていました。多分、みんなはそれなりに勉強をしていたのでしょう。
 実際、公務員はテストの点数が出世に大きく影響する世界です。研修の成績が上位5%以内に入ると「金時計」という名前の金メッキの時計がもらえて、ある程度の出世が約束されるようです。それでなくても公務員を志望するような人達は基本的に真面目な人が多く、頑張って良い点数を取ろうとしてしまう。本当は3年後に受ける専門の研修での成績が重要で、新人研修の成績はあまり関係ないのですが、真面目な人はそう割り切れないようで、一生懸命勉強します。
 一方の僕は、食堂の栄養バランスの取れた食事と毎日の運動でどんどん血色が良くなっていきました。同僚と飲み会があると、皆がストレスでヘロヘロになっているのを横に1人血色が良い。「セニョールさん、肌がテカってる」と言われたものでした。実際は一番くらい年長なのですが。
 他の人とは違う行動をとっていますが、僕は「今は勉強するときではないな」と判断し、目的を持って頑張って運動していました。その意味では、充実していました。

 研修の目的は勉強だけではなく、全国から集まった他の研修生たちとの交流もあり、そのための飲み会がよくありました。班員全員で飲んだり、有志で飲んだりとさまざまな飲み会があり、同期が何百人もいるので、ラウンジではいつも誰かが何かしらの理由で飲んでいる状況でした。
 講義後、スーツのままラウンジに集合して、酒のつまみを並べて待つ。さすがに勤務時間中は飲めない。それで、5時の鐘がなったらすぐ「かんぱーい」と飲み始める。寮も学内にあるので、気兼ねなく倒れるまで飲める。酒が好きな人、酒に呑まれる人は、正体がなくなるまで飲みます。
 個人的には甘党の僕は酒はあまり好きではありません。基本的に酒が好きでないから、ラウンジでのダラダラした飲み会で楽しい思い出はありません。
 最初の班の懇親会は、ラウンジでの飲み会でした。全国から集まった若い税務署員の卵達、別に面識もなく共通の話題もなく、最初は様子見で当たり障りのない、つまらない会話が続きました。僕は、飲み会のこの盛り上がらない感じが嫌いです。間が持たない。そこで、切り込んでいくタイプです。
「あの班の巨乳の子、話してみたらすごい良い子だったよ」
「そうですよね、あの子、東京局ですよ。さすがにちょっと洗練されている感じですよね」
「そうだよね、洗練されて、しかも胸が大きいって良いよね」
 まるでペラッペラの薄っぺらい会話で税務署員の会話とは思えないけど、仕方ありません。今日はオドオドした初顔合わせ。会話には潤滑剤が必要なのです。下ネタ、異性のネタは、男性にとってはとても良い潤滑剤です。僕は、何も巨乳の女の子の話をしたいのではない。場を盛り上げたかっただけなのです。
 その後、順調に男性陣は下ネタで盛り上がって、次第に女性もその盛り上がりに加わりました。最初、少しの緊張で始まった懇親会は大盛り上がりで終わったのです。僕は、満足でした。僕の少しの自己犠牲をきっかけにして、男性陣をはじめ、みんなが盛り上がってくれた。
 と思っていた。
 翌日、昨日盛り上がっていたはずの女性陣の一人が「セニョールさんの下ネタに閉口した」と言っているらしいことが分かりました。僕は、戸惑った。全ては、みんなを盛り上げるために言った、軽い下ネタのつもりでした。しかも、最初に口火を切った後は、僕はほとんど下ネタは言っていない。周りの男性陣が楽しく下ネタで盛り上がって話していて、僕は聞いている側のつもりでした。
「俺、そんなに下ネタ言った?言ってないよね」
「まあまあ、いいじゃないですか。セニョールさんが盛り上げてくれたって事で」
「君たちはいいけど、俺一人悪者?なんか納得いかないんだけど」
 みんなで同じ話題を言っていたはずなのに、僕はそんなに喋っていなかったはずなのに、なぜか「セニョールが下ネタを言っていた」という結論になっていた。
 その後、班で飲む時はすっかり話しにくくなってしまった。
 僕が何か言いかけると、その女性は「また、下ネタを言うんでしょう?」とニヤニヤしながら楽しそうに突っ込んでくる。「いやいや、下ネタなんて言ったことないですよ。そんな下品な話、俺がするわけないじゃないですか」と返すのが精一杯です。この女性にどう付き合ったら良いかわからない。これは大阪のノリか?ツッコんで楽しんでるのか、それもと本当に下ネタが嫌いなのか、分からん。
 これには困って、妻に「こういう女性にはどう対処したら良いのでしょう」ってきいたら、「その子、あなたに話しやすかったんじゃない?」
 なるほど話しやすかったのか、そう思ったら少し寛大な気持ちになれた
 このカルチャーギャプも勉強なのかな、と思った

 散々飲み会の話を書きましたが、基本的には僕以外の皆はよく勉強して、僕はよく運動をした研修でした。
 僕の研修の成績は『C』だったような気がします。「C取っちゃったよ」と笑っていた記憶があります。

 次回は研修所での恋愛の話です

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