【チカホへの道2023#18】受賞者のヨコガオ~中村さん編~
研究成果でSDGsに貢献する発表会『博士学生が描く、66のミライ』受賞者のヨコガオをお送りしています。第2回は優秀賞を受賞された、国際感染症学院 中村隼人(なかむらはやと)さん。
ポスター題目は『動物用医薬品とヒト用医薬品の橋渡し研究が切り開く医薬品開発の新しい未来』です。一体どんな研究なのか・・・。中村さんに聞いてみましょう!
免疫チェックポイント阻害薬とは・・・?
私の研究は、ヒト用医薬品を獣医療に応用するとともに、獣医療研究の成果をヒト用医薬品の開発にフィードバックすることで、双方の研究からイノベーションを促進することを目的としています。とくに、ヒト医療における最先端の抗がん剤である「免疫チェックポイント阻害薬」を獣医領域に応用して、動物の難病の治療法を開発することを目標に研究を行っています。
免疫チェックポイントとは、正常な体内では過剰な免疫応答を抑制し、自己免疫疾患の発症などを抑える役割をもった分子です。例えるなら、免疫システムにおけるブレーキのような役割です。
ところが、がんや慢性感染症といった疾患に罹ると、このブレーキが常にかかった状態になってしまい、免疫細胞が、正常な免疫応答を起こせない状態に陥ってしまいます。「免疫チェックポイント阻害薬」は、免疫チェックポイントによるブレーキを解除して、免疫応答を正常な状態に回復させる薬です。
研究はどこまで進んでいるの?
免疫チェックポイント阻害薬についての研究は、ヒトのがん患者の治療で一定の効果を示し、10年ほど前から注目を集めるようになりました。免疫チェックポイント阻害薬は、一部の患者さんには劇的な効果がある一方で、効果がない患者さんも多いという課題が残されています。
そして、ヒト医療において一定の成果を収めたこの医薬品は、動物の治療にも応用され始めています。
免疫チェックポイント阻害薬は動物にも有効か?
私たちの研究では、イヌの腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害薬の治療を試みると、今までは治療が困難であった腫瘍に対しても効果を示すことがわかっています。免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療は、高度な技術(外科手術)や医療機器などが必要なく、外科手術では切除できないような部分にできた腫瘍に対しても効果があります。さらに、イヌの腫瘍だけではなくウシの感染症に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は効果を示すことが分かっており、病気を起こすウイルスを減少させる効果も報告されました。
なぜイヌの治療なのか・・・?
イヌはヒトよりも腫瘍の発生や転移に要する時間が短く、治療への反応が早いため、薬の効果を早期に判断できることが知られています。私の研究ではこの特性を活かして、効果的な抗がん剤の投与方法や組み合わせを調べる研究に活用したり、治療成績を予測する事ができるような因子(マーカー)を見つけたいと考えています。
研究が進むと、どうなるの?
この研究がうまくいけば、獣医療はもちろんのこと、ヒト医療に対しても研究成果をフィードバックできると期待しています。
また、今後は、ヒト医療と獣医療の相互作用をさらに深めるため、ヒト医療で現在盛んに用いられているAIや機械学習技術を獣医療の研究にも導入したいと考えています。例えば、治療前後のタンパク質や遺伝子発現の変化をデータベース化し、電子カルテを利用した大規模なデータ解析を行うことで、個々の動物の特徴に応じた治療戦略を立てられるようになると考えています。
私が考えるミライ社会のかたちとは・・・
今、めざしていることとは・・・?
私の研究は、ヒト医療と獣医療の相互作用による医薬品開発の新たな可能性を模索するものであり、動物の知見をヒト医療に応用することで、より効果的な治療戦略を開発することを目指しています。
動物とヒトの健康における相互作用を促進することで、ヒトも動物も、薬で病気から救える未来社会を実現することを目指していきたいと思っています。
動物医療の進歩を知ってもらいたい!
このイベントに参加した理由は、研究成果を広く伝えるアウトリーチ活動の重要性を感じているからです。私は特に、動物用医薬品にも多くの選択肢ができつつあることを広めたいという思いがありました。免疫チェックポイント阻害薬のような最先端の医薬品は、まだまだ世間からはあまり認識されていないのが現状です。私たちの研究活動を知ってもらうことで、動物医療の進歩に対する理解が広がればいいな、と思い参加させていただきました。
中村さんが、ポスターについて解説してくれる動画はこちら↑
イベントを終えて
実際に、イベントに来訪された札幌市民の皆さんは、イヌやネコ、ウシに対してさまざまな治療方法が研究されていることに驚かれていました。特に、最新の医薬品が動物医療にも応用されていることや、新しい治療法が次々と開発されていることに関心を持たれている方が多かったように思います。多くの方々から、「昔飼っていたペットに対しても、こうした治療をしてあげたかった」といった声をいただきました。これは私たち研究者にとって大変励みになるコメントでした。ペットの健康を守るためにもっと多くの選択肢があったら良かったと感じる市民の方々の声は、私たちの研究の意義を再確認させてくれました。
このような交流を通じて、研究成果を広める活動の重要性を再認識するとともに、今後も多くの人々に私たちの研究を知ってもらい、動物医療の発展に貢献していきたいと強く感じました。
優秀賞受賞の中村さんからお話を伺いました!
次回は最優秀賞受賞の池端さんのお話です。中村さんと池端さんは同じ国際感染症学院に所属されていますが、お二人の研究内容は異なります。北大には沢山の研究があることを実感できる内容となっていますので、是非ご覧ください!