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猫の遁走曲(その五・符割)

前回に続き、スカルラッティの「猫のフーガ」に、小唄「猫じゃ猫じゃ」の歌詞を付ける話。
今回は、歌詞を音符に割り当てる符割をどうやるか、という話だ。

符割には、特にこれといった決まりはない。
といえばそれまでだが、言葉のリズム、アクセント、そしてイントネーションに、なるべく不自然な感じがないように、歌詞を割り付けるのが基本だろう。
ただ、歌詞は音符より数が多い場合もあるし、その逆もある。
歌詞が音符より多い場合、一つの音に言葉(音節)を複数割り当てるか、曲の一部を反復させるしか方法がない。たいていは細かい調整が可能な前者のやり方が使われる。
ただ、前者だとメロディのリズムが変わることになるし、歌詞の固有のリズムを壊さないような配慮も必要になって、そのあたりがアレンジの一番難しいところである

少ない場合は、歌詞を一部反復するとか、母音を伸ばして、次の音符も(また次もと)続けて歌う場合もある。

猫じゃ猫じゃでは、歌詞の方が圧倒的に数が少ない。なので歌詞を何度も反復するか母音を伸ばすかという話になる。母音を伸ばすのは、音符の動きが小さい場合にはよいが、猫のフーガのように音の跳躍が多くてしかも激しく動く場合は適さない。したがって、歌詞を何度も繰り返すことになる。

先ほど、歌詞の固有のリズムと書いたが、それに大きく関係するのは楽曲の拍子である。
猫じゃ猫じゃは日本語特有の七五調の歌詞なので、4拍子のリズムになる。
一方、猫のフーガは6拍子。
6拍子は3拍のリズムが2つ並んだ構成なので、3拍のリズムを3連符一拍分と数えれば、2拍子になる。従って2小節単位で見ると4拍子として扱うことができる。
例えば八分音符が3つずつ並んだところを3連符とみなして、4拍子で猫じゃを歌えばよい。

休符(間合い)を「はい」と書けばこうなる。

「はい」ねええこおおじゃああ ねええこおおじゃああとおお
「はい」おおおしゃあああああ まああすううがあああああ

と、なにげに怪奇絶叫調。^^

これはこれで面白そうだが、筆者としては、どちらかというと軽快な調子にしたい。
なので、猫じゃ本来の4拍子のリズムの方は目をつぶって、強引に6拍子のリズムに割り振るしか仕方がない。

符割の問題は以上であるが、猫のフーガに特有の問題もある。
フーガは多声音楽(ポリフォニー)の一つである。
ポリフォニーの中でもフーガは特異な存在で、主旋律のパートがない。
というか、パートが4つあるなら、4つとも主旋律、つまり歌メロなのだ。
伴奏は歌メロの一部または全部をなぞるだけでいいから、伴奏アレンジは楽ちんなのだが、問題は各パートに割り当てられた歌詞が、少しずつずれた状態で歌われることだ。
歌が2パートだけなら意味を聴き分けられるが、それより多くなると聖徳太子とまではいわないが、それなりの耳が必要になる。ただし歌詞に意味がないか、あっても単語の連呼のようなものなら、楽器と同じで意味を聴き分ける必要がない。
従って、基本方針はこうなる。まず、意味のある歌詞を歌わせるのは、同時に2つまでとする。そして残りのパートは「猫じゃ猫じゃ」とか「おっちょこちょいのちょい」といった囃子言葉の箇所がくるように符割で調整する。
もし歌詞の都合でそれが難しい場合は、重なる場所は敢えて歌わないことにする。つまり伴奏楽器に任せてしまう。または、小声でこっそり歌わせる。

ここまでで、符割の基本的な方針が決まった。
ただ、猫好きとしては、歌詞にはないのだが、あの「猫語」を是非とも入れたい。
「にゃあ」と「にゃーん」
の二つだ。
それも頭のところに、こんな感じで。

にゃあ にゃあ にゃあ にゃあ にゃあ にゃあ 
猫じゃ猫じゃ にゃーん

その部分だけ作ったデモがこれ。
20秒弱の短いデモ版なので、視聴できる環境があったらお聴き頂きたい。

サウンドが出ないデバイスをお使いの方は、画面の楽譜だけでもだいたいの様子はわかって頂けると思う。

あとは、根気よく制作するだけ。
出来上がったら、是非聴いて頂きたいものだが、なにぶん楽屋話を書いてしまっている。話の通りにできていないところもあるだろうし、せめて見つからないことを祈るばかりだ。(了)

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さて、これまで5回にわたって書いてきました「猫の遁走曲」ですが、これでおしまいです。最後になりますが、この冗長な駄文をお読み頂いた方々には、心より御礼申し上げます。

なお、YouTubeには歌詞の字幕入りの完成版ビデオもアップしています。
演奏時間は4分です。
御用とお急ぎでない方は、是非お聴き頂ければ幸いに存じます。

それと、実はもう一編、フーガについての解説文も書いていまして、本編中のどこに入れようかと迷っているうちに、最終回になってしまいました。
そこで、付録として次回にアップしたいと思っています。
内容は、ザ・ピーナッツのヒット曲「恋のフーガ」をネタにしたフーガの解説です。
恋のフーガは歌謡曲ですし、フーガと思って聴く人はたぶんいないと思います。また実際、フーガではありません。
ですので、このような切り口のフーガ解説は他にはないだろうと自負しています。
もちろん、飼い猫の写真も載せる予定です。^^

よろしければ、どうぞご覧ください。

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