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めざせ女山伏!?神社修行編(前編)

2023年秋、一泊二日で武蔵御嶽神社の修行体験に参加した。
以前、某寺で1日修行体験(滝行・山駆け・写経など)したときのことは記録を残しておらず(涙)どんどん記憶が薄れていることに気づいたので(来年もっかい行く!)、今回は忘れないうちに体験したことを書いておこうと思う。
ちなみに、足柄の「夕日の滝」での、修行というよりはレジャー的な滝行体験については、travel.jpの記事にしてある(もはやいくら読まれて1銭にもならないが)。ご興味あればこちらをご覧ください。↓
【滝行で心身リフレッシュ!南足柄「夕日の滝」で修験者体験】
https://www.travel.co.jp/guide/article/44916/

※タイトルにある「山伏」は神仏習合時代の修験道の山岳修行者のことで、神仏分離がなされたいま、修験道は廃止されている。
※これは2023年の修行体験の様子であり、別の年(今後)と内容が異なる可能性がある。

では、はじまりはじまり~。

《DAY1》
「開講奉告祭」→「滝行」→「大祓行法」→「鎮魂雅楽」

午前9時半。小雨が降ったり止んだりする中、初めての御岳山に到着。御師(おし)集落を抜けて、まずは集合場所でもある宿舎へ。
御師とは、宿坊で修験者たちの世話をした人たちのこと。御岳山にたくさんある「~~荘」はすべて、かつては修行者のための宿坊で、昔は「~~坊」といったそうだ。
宿を見つけ、玄関先で今日からの修行の参加者だと告げると、荷物を預かってくれた。ありがたい。身軽になって、さあ神社へ。
土産店を抜けて参道を進むと、長い石段が現れてちょっとひるむ(写真↑)。しかし修行が始まると御朱印がもらえない可能性もあるので、意を決して石段を上る。
後で知ったが、「霧の御岳」という言葉があるらしい。雨にけぶる御岳山。これはこれで趣がある。

石段をのぼり切り、武蔵御嶽神社にたどりつく。お参りして御朱印をもらい、お守りを買う。そして宝物殿を見学。特別展として今だけ、おいぬさま(絶滅したニホンオオカミ)の貴重な頭骨が展示されているのである。(大口真神式年祭 特別企画「オオカミ信仰とおいぬさま」)
農作物を食い荒らすイノシシやシカの天敵だったオオカミは、かつては神様だった。しかしその後、家畜を襲うとして駆逐され、ついに人々はオオカミを絶滅に追いやった。そのためイノシシやシカが増えすぎて農作物への被害が拡大し、人がイノシシやシカを駆除せねばならなくなった。神殺しの報いである。

参拝後、土産物屋で「御岳そば」を食べ、お菓子を購入。御朱印同様、修行後では店が閉まっている可能性があるので、さっさと買っておく。
集合時刻は正午だが、20分ほど前に宿舎に向かう。周辺を猫がうろうろしている。こちらの宿で地域猫6匹の世話をしているそう。(猫は宿の中には入れない。)今回は3匹しか見なかった。

修行体験の宿舎は持ち回りなので、年によって違うらしい。今年は当たり。リフォームしたばかりと見えて、内装も水まわりもとてもキレイ。それに経験者によると、宿舎によっては滝行の行衣を夜間に干すだけ(洗わない)なので、翌日ほんのり湿った冷たい状態で着なければならないこともあるとか。ここはちゃんと洗濯も乾燥もしてくれる。しかも1日目の修行が終わると、みんなの濡れた傘まで預かって干してくれた。

集合時間になり、畳にテーブルのある広間に通される。参加者は二十数名。若干、女性が多め。
武蔵御嶽神社の神職さん(当然だが全員男性)が4人ほど。これから1泊2日の間、修行を先導してくれる方たち。人事異動で、今年からこの修行体験を管轄する祭事部に配属されたのだそう。毎年来ている人は、顔なじみの神職がいなくて寂しがっていた。

まずは受付。参加費の残金を支払う。白い行衣と白鉢巻を借り、手ぬぐいと修行の手引き、名札を受け取る。そして大祓の言葉を書いた「神拝詞(しんぱいし)」(経験者は持っている)を購入。
手ぬぐいには「武蔵御嶽神社」「御嶽錬成」などの文字が入っていて、縦に三つ折りにして首にかけるとその文字がちょうど左右の胸に、首の後ろには赤い三つ巴と「奉拝」の文字がくるようになっている。白衣以外の服装のときは、これをかけていれば修行者だと分かる。

貴重品袋に財布や携帯電話などを入れて封をし、預ける。修行中はお金を使うことも写真を取ることも原則禁止。なのでこれ以降の写真はない。
オリエンテーションののち、部屋割りの発表。4人部屋で、私を含む3人は一人参加の女性。あとのひとりは夫婦参加の奥さんだった。この旦那さんの方は、なんと大峯での本格的な山岳修行(断崖で逆さに吊られる)の経験者だという。まさに修行マニア。大峯はいまだ女人禁制なので、うらやましい。
部屋に荷物を置き、滝行へ行く準備をして宿舎を出発。

まずは武蔵御嶽神社へ。
神楽殿で玉串の捧げ方を学ぶ。手足の運び方、お辞儀の仕方などをおしえてもらう。そして禊(滝行)の前後に行う儀式(※のちに触れる)の練習を行ったのち、神社の拝殿へ移動して修行開始の開講奉告会。お祓いを受け、修行者の代表3人が玉串を捧げて参拝(せっかくなので立候補した。普通は入れないところまで入れる)。
最後に神主さんから励ましのお言葉。雨の後だから滝も増水していていいですよ。みんな苦笑い。

神楽殿に戻り、男女に分かれて行衣に着替える。女性用白衣は、まず胸の上から膝まである長いスカートを肩紐で吊り、その上にお尻が隠れる長い上着を羽織るというもの。大事なところは布が二重になるため、水にぬれても透けない。
ここから滝までまだまだ山道を歩くので、経験者(毎年来ている常連さんも多い)のアドバイスに従い、下はズボンと登山靴を履いたまま。白衣の裾をからげて腰ひもに差し込み、白鉢巻をして「綾広の滝」に向けて出発。

参道の石段の途中で脇にそれ、山の中へ入っていく。比較的平坦な道のり。観光客も通る。しばらく行くと「天狗の腰掛け杉」という大杉がある。枝が見事なU字型をしている。
修行中は私語禁止。雨でぬかるんだ道を、みな黙々とただ歩く。友達同士で参加している女性たちは私語を度々注意されていた。

この道のりを最初に歩いたときは、一体どこまで行くの~!まだ着かないの~!と驚いたが、何度も歩くと近く感じるのが不思議だ。
山中を歩くこと40分。ようやく川のせせらぎが聞こえ、ついに「綾広の滝」に到着。
去年まではなかったという、最近新設された女子修行者用の更衣室へ。ズボンと下着を脱いで白衣だけになり、更衣室に備え付けてある草履を借りて、滝に向かう。

滝の近くには簡素な木の鳥居があり、その手前で履物を脱ぐ。鳥居をくぐってさらに滝の近くへ。河原は起伏のある岩場で足の置き場を探すのに難儀する。
ちなみに男性の更衣室はないので、その辺で白衣と白袴を脱いで、ふんどし1枚になる。

鳥居をくぐった瞬間からずっと振魂をし続ける。全員が道彦(代表先導者)に向かい合うように立ち、しばらく振魂をつづけたのちに、鳥船行事、雄健(おたけび)行事、雄詰(おころび)行事、気吹(いぶき)行事を行う。
この一連の禊行法は、明治の古神道家、川面凡児(かわつらぼんじ1862~1926)が創始したもの。比較的新しい行法ではあるが、現在、神社本庁に属している神社の神職たちはこの行法で禊を行う。

禊行事の詳細は秘す。ごく簡単に説明すると、「振魂」とは自分の魂を丹田のあたりで震わせるもの。振魂をするときはつねに「祓戸大神(はらえどのおおかみ)!」と唱え続ける。
「鳥船」は古事記に出てくる天鳥船のこと。船をこぐような動きおよび掛け声とともに、禊の和歌三首を唱える。準備体操の役割も。
「雄健」は自分の魂を宇宙神である国常立神(くにのとこたちのかみ)と一体化させるもの。「雄詰」は天之沼矛(あめのぬぼこ)で魔を断つもの。「気吹」は霊的呼吸法。

儀式が終わると一列になって一人ずつ滝に入る。自分の番を待つ間もずっと振魂をする。「綾広の滝」は落差10メートルほど。以前に行った足柄の「夕日の滝」が落差23メートルだったので、それよりは水圧水量ともにマシな方。
みんないきなり滝に入っていくが、私は水温の冷たさに慣れるため、前の人が滝に入っている間に、しゃがんで腰を水にひたし、また手で水をすくって肩と頭にかけておいた。

ついに自分の番になる。滝壺のそばに立つ道彦が天之沼矛印で合図する。それに応えてこちらも矛を振り下ろす。そして滝に入り腰を後ろの岩につける。岩にもたれるように上半身を後ろに倒すと、より多くの水が降り注ぐが、そこは自分で水量を加減する。
滝に入っている間も、ずっと振魂をしながら「祓戸大神!祓戸大神!」と唱え続ける。
出るタイミングも、道彦が決める。入るときと同様の合図がなされ、こちらもそれを繰り返す。

滝から出たら列の後ろに並び、都合3回、滝に打たれる。打たれている時間がだんだん長くなる。待っている間も常に振魂。
男性はふんどし以外は素肌なので体温や日光でどんどん肌が乾くが、女性は濡れた行衣を着たままなので、男性より寒いし、衣が重い。

修行者が3回ずつ滝に打たれると、神職の皆さんも同様に自分で滝に入る。全員の滝行が終わると、また道彦の方を向いて、振魂、鳥船にはじまる一連の行事を行う。最後に柏手1回、そして「おめでとうございます」という。

滝行のあとは素早く服に着替え、また40分かけて宿舎へ。宿舎の入り口で濡れた白衣と鉢巻が回収される。部屋で少し休憩して荷物の整理などしていたら夕食の時間。

受付のときと同じ広間で夕食。
食前の和歌(本居宣長が詠んだもの)を唱和し、柏手を1回打つ。その後、食べ始める。食事中も私語は禁止。
精進料理にお粥。宿のおかみさん曰く、お粥なんて初めて作ったわ。お粥というにはちょっとゆるい。そしてお粥自体に軽く出汁の味が付いていて、そのままでもおいしい。

おかずはみそ汁、お揚げを添えた湯豆腐、カボチャや高野豆腐の煮物、ミョウガとわかめの酢の物、こんにゃく。そして梅干し、昆布、たくあん。お粥はおかわり自由。
私は小食な方だが、ほぼスープのようなお粥はきっと消化が早いだろうから寝るまでにお腹が空きそうだな、と思い頑張っておかわりした。

基本的に、修行に食べ物は持ち込めない。支給される飲食物以外は不浄とされる。宿には飲料の自動販売機もあるが、財布を預けてしまっているので小銭すらない。そのため宿は、修行者が自由に飲めるお茶を用意してくれている。

自分が食べ終わっても、全員が食べ終わるまで黙って待つ。全員が食事を終えたところで食後の和歌(やはり本居宣長が詠んだもの。食前の和歌とは別)を唱和し柏手1回。
さあ、あとは部屋に帰って寝るだけ…ではない。
その場で「神拝詞」を開いて捧げ持ち(持ち方が決まっている)、「大祓詞(おおはらえのことば)」を音読する。このあと神社で「大祓」を奉唱するので、その練習である。
お経同様、つねに一本調子で抑揚なく切れ目なく読んでいく。息つぎの場所も自由。ただ真ん中あたりに、軽く間を開ける箇所がある。そして最後も少しだけゆっくりになり「まおすー」と伸ばす。

19時、宿舎を出発し、神社を目指す。あたりはすでに真っ暗で、参道の石段をほのかに照らす灯りだけが頼り。一般の参拝客がいないなかでの夜間参拝だ。ちょっとうれしい。
ふたたび長い石段を上がり拝殿へ。そこで大祓行法。「大祓」を3巻(3回)奉唱する。神職が行う場合は50巻奉唱するらしい。1巻5分としても4時間以上かかる。

大祓のあとは「鎮魂雅楽」。神職による太鼓と竜笛(いや篳篥だったか)の奉納を聞きながら行う呼吸法。しかし滝行の疲労がここにきて眠気をさそう。半眼を維持せねばならないのがまた難しい。後で聞いたら、みんなあれは(起きているのが)きつかった、と言っていた。これも修行?
こうして1日目のメニューが終了。
宿舎に戻り、明日の予定を確認して質疑応答タイムとなったが、まあ質問はいつでも受け付けますから、ぜひお風呂に、とのありがたいお言葉。滝行で冷えた体を温めることができてよかった。ちなみに御岳山に温泉はないらしい。
22時ごろ就寝。

~後編につづく~



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