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野良ネコに家を…3:第7話 トラちゃん文庫

⑦トラちゃん文庫

お隣さんからうちの木が倒れていると聞きあわてて外へ。
お隣はいわゆる旗竿住宅。つまり住宅が道路に面しておらず、うちの横の通路を通って玄関に至る。
その通路に沿ってうちの敷地に4本のマンサクの木が生えているのだが、うち1本が雪の重みと強風で根が浮き上がり、完全に横倒しになっていた。

帰宅したご主人はさぞ驚いただろう。確かにこれでは家に出入りできない。
暴風雪はまだ続いている。飛び出した私は、お隣のご主人と一緒になって、サンダル履きに素手のままとにかく枝を引っ張り、その晩はなんとか通れる隙間を作った。
その後、木を撤去し植木屋を呼んで根っこも引っこ抜いてもらった。
さて、ぽっかりあいたこのスペースに何を植えようか。

そんな寒々とした日が続く、ある昼下がりのこと。
電気ストーブがあっても、暖かい板があっても、やはり寒い玄関先(玄関ドアを開けたままだから)でトラと遊んでいた。すると突然、のそっとトラが膝に乗ってきた。
わあああ、猫が膝にのってる~!!!♡

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猫を膝にのせる。それは子供のころからの夢だった。とうとう夢が叶った瞬間だった。
子供のころ、祖父母の家の猫たちが叔母の膝にばかりのって、私にはのってくれなかった。それがすごく悔しかったうらやましかった。
今から考えると、子供の膝は小さいからのりにくいようだ。

トラちゃーん!なんていい子なの♡
感動してひとしきり猫をなでなでニヤニヤ。そしてふと、嬉しがっている場合ではないことに気づく。
…動けない。

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玄関先で正座したまま、何もできない。ど、どうしよう…。
ストーブと暖かい板があるとはいえ、上半身はかなり寒い。
こんな話を思い出す。イスラム教の開祖ムハンマドは猫好きで、猫が自分の着物の袖の上で寝てしまったため、その袖を切り落として立ち上がったそうだ。いま、その気持ちがよく分かる。
(ちなみに、だからイスラム教の国では野良ネコたちが比較的大事にされている。)

家族が家にいるときはまだいい。
ねえ、ちょっと上着取って、スマホ持ってきて、などと言える。しかし一人の時はどうしようもない。
しまった、せめてスマホがポケットに入っていれば。いや、すぐ隣の私の部屋にはまだ読んでない本がたくさんあるのに。
うおー、本を取りに行きたーい。でも動いたらトラが膝から降りちゃうー。
…という失敗を何度か繰り返す。

猫はいつも期待を裏切るのだから仕方がない。のってほしい時にはのってくれず、え、今?というタイミングで膝にのるのだ。
そういうわけで我が家の玄関に本置き場ができた。
「トラちゃん文庫」の開設である。

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