#27「空き家」
定番の散歩コースに、古びた家屋がある。
そこそこ古く、構造も洋風ながら日本旧来のという感じで、その家の周りに昭和の風景を並べればなんの違和感もないという具合の家屋だ。
小庭が広がっているが手入れは不十分で、雑草がのさばって家の外観を少しばかり隠している。
人の気配を感じたことがあまりなかったが、常に黒猫の群れはいた。
2、3匹のグループで、例の如く尻尾をなくしたものもいた。あれはやはり車に轢かれるとかしてなくすものなんだろうか。行き場を無くした尻尾はその後どこへ行くのだろうか……などとつい考えてしまう(が、居た堪れなさすぎるのでココではこの辺にとどめておこう)。
いつも仲良くまとまって行動しており、見た感じではその家を拠点にしているらしかった。彼らと戯れる通りがかりの奥さんやおばあさんをよく見かけたが、人間はあまり好きじゃないらしかった。
余談だが、猫にかまうのは往々にしてやはり女性で、旦那さんが一緒であっても大概さっさと先に行ってしまう。最近読んだ『断片的なものの社会学』(岸政彦/朝日出版社)の中でも「男というのはどうしても"小さいものを愛でる"ことに不得手である(拙意訳)」と述べられていたが、なるほど。そうではない人を知っているのと、自分があまりそうでもないと思うのとでややピンときていなかった一節だったが、少し合点がいった。
今思えば、洗濯物や小道具なども実質ちゃんと見た事はなかったかもしれない。
というのも、だ。
***
一週間ほど、個人的になかなか散歩に出られない日々が続いたことがあった。
忙しいだの帰りが遅いだので時間や体調がちょうどしなかったためだ。心身のリフレッシュを目的に習慣化していた散歩を省く理由としてはいささか矛盾なんだが、そのあとようやく繰り出せた散歩といったらやはり格別のものだった。
しかし、件の家に差し掛かって僕はぎくっとした。
家の玄関にあたる場所に、細長い木材で無骨な柵が打ち立てられ、「関係者以外立ち入り禁止」の表示がぶら下げられていたからだ。
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