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#5「結婚」

 「僕はこのまま誰とも結婚する気がなくて、猫と一緒に過ごせればいい」

 少し前、僕が昼飯をご一緒したとある人の言葉だ。

 冷静になって省みてみると、僕は3年前まで大学生だった。心は未熟なままなので、思い返しても数ヶ月前のことのような気持ちだが、もう完膚なきまでに過去なんである。僕は今月で26になる。
 結婚のことなど考えたこともなかった。いや、それは盛った。ふんわりイメージするくらいのことは人並みにあったが、自分が誰かと結婚をして、全く異なる人生を歩んできた人と自分の人生が折り重なる、全く新しいオリジナルの家庭でオリジナルの暮らしをする、家事の当番を分けたり一緒に買い物に出かける、子供や動物を新しい家族として迎え入れる……そんな具体はまだ想像したことがなかった。冒頭の猫発言、3年前までの僕なら、事と次第によっちゃあ同じようなことを言ったかもしれない。

 しかし、ここ数年で徐々にだがその想像図や、渇望というほどではないが欲求が生まれ始めている。
 一人の時間は絶対的に大事なもので、誰が自分を尊重し受け入れてくれても必ず在り続ける時間なんだけど、心が成長したのか、こだわりがほぐれたのか、人に恵まれたんだか。人と共にいることへの楽しさや良さが染みてきたり、一人の時間を多少押してでもその時間が続いて構わない、と思えるケースさえここ数年で出てきた。あるいは一人の時間に飽きたんだろうか。それはまだないと思うけど。
 でも本当に自分の暮らしのリズムや、いかんせんこんな性格なんであれやこれやと変わったり変わらなかったりする気まぐれを、互いに負担なく受け入れられる確信が得られたら、仮に失われる時間が多少あったとして、それは決して損な生き方ではないと思う。

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特に有益な情報はありませんが、読んだ方にとって普段目も向けないような他愛のないもの・ことに改めて触れるきっかけ、あるいは暇潰しになったら幸いだなと思っています。

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