Creepy Nuts 「顔役」①

初回です。今回は2021年2月24日にYoutubeチャンネルにてプレミア公開されたCreepy Nutsの「顔役」のリリックを解剖していきたいと思います。

この楽曲は『クローズ』シリーズの生誕30周年イベント『Reクローズ、 Re男気。 ~もう一度、 「男」が惚れる「カラス」に会いに~』とのタイアップのようです。

この曲はRラスボス大先生がぶちかましすぎています。こういうセルフボースティングはたまらないです。「生業」と同じくスキルだけで殺しに来ています。BPMはおそらく148くらい。かなり速めなトラックですが、これでもかと、しかし、涼しい顔で高速ラップを畳みかけます。まずはこんなhookから・・・

画像2

低音でブツブツと言っているため呪文のようにも聞こえるこの聞き取りづらいhookですが、それが逆にキャッチ―な気もします。

基本的に "a" を多用していることが分かります。半ばで”oau"(「か”おやく”」と「Profes”sional”」)で踏んでいるのが意外でした。

続いてVerse1。最初の8小節。まじで、イカれてます。

画像2

まるでアナウンサーが滑舌を鍛える訓練用の文章みたいに、言えると気持ちい文章として成立しています。

基本的には”aau"と"oa"の組み合わせでライミングしています。8小節で”aau"は13個、”oa"を12個含んでいます。さらに「”カラスの学”校」「”固く閉ざ”す」「開かずの間」「”ガラスのハ”ート」「”鳴かず飛ば”ず」「場数の差」で"aauoa"を6個きれいに踏み、その間に「”ならず者たむ”ろ」「余すとこなく」の7文字踏みを挟んできます。えぐい・・・

内容としては、状況説明、世界観の導入を意図していると思います。それをこの韻の密度で展開されれば、誰もが曲に引き込まれてしまうはずです。

画像3

続いての8小節は韻というよりは、クローズの世界観と自らが戦場としているHIPHOPシーンを照らし合わせることに重点を置いていると思います。自分のことは「何も持たなかった転校生」と称しています。ライミングは脚韻で”en"だったり"oe"の畳みかけだったりといたってシンプルですが、小節の頭に"a"の響きを持ってきていることは意図的だと思います。

画像4

「何も持たなかった転校生」。でも何故すごいのか。それは結論から言うと圧倒的なスキルということですが、ここではラスト8小節の畳みかけに向けて徐々に熱量を上げていく印象です。

個人的にこのパートで出てくる

「格好付きそうもない」「ダントツkeep on shining」

のライミングが一番好きかもしれません。響きでさりげなく踏んでいる上品さもありながら、意味合いが見事に対称になっているし、R-指定の存在そのものを象徴しているようでもあります。ZORN氏の言う”韻の飛距離”が出てるタイプのライムだと思います。「向かい合」と「スタミナ」で踏んでいるのも芸が細かいです。

画像5

ラスト8小節も怒涛の畳みかけを見せます。前半4小節は”iau"(7個うち4個は"iaua")"aaa"(5個)の組み合わせを中心に構成しています。”iau"は「比較」「死角」「”膝つ”かす」「逃がす」「稲妻」「”ミラク”ル」と見事な頭韻です。さらに、意図してかは分かりませんが3小節目半ばにさりげなく「”に逆”転」が入り込んでいます。さらにいうと1つ前のセクションに「威嚇」が登場しており、これはこの頭韻畳みかけの予兆とも取れます。

後半4小節は「いがみ合ってる」「光当てる」「一杯やれる」と"iaiaeu"の6文字踏みをメインに据えています。一ついうと『俺に派手に負けたって自慢をアテにひ孫の代まで一杯やれるぞ』はかなりのパンチラインだと思います。「クローズ」の原作とのリファレンスは分かりませんが、こんなことを言って成立するのはR-指定しかいないくらい、実際MCバトルではそれくらい強かったわけですから。

そして、「派手に」と「アテに」、「自慢を」と「ひ孫」でもさりげなく踏んでおり、「一杯やれる」という”オチ”を陰ながら際立たせているように思えます。

ものすごい韻の密度でありながら、クローズの世界観とHIPHOPシーンにおける自らの立ち位置を踏まえた極上のボースティングをかましている、濃い内容であることが分かったと思います。

次回は、2verse目、3verse目の解剖を行っていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?