今から20年前の教員採用試験は,ハイレベルでした!本当に「ほめる」だけで子供は伸びるのでしょうか?自己肯定感や自己存在感や成功体験は、「ほめる」ことで感じさせることができるのでしょうか?
今年は2023年です。
近年,教員採用試験のレベルが下がってきたと言われて久しいです。
今から,20年ほど前の教員採用試験は,どのようなものだったのでしょうか?
ちょっとした一例を見てみましょう。
ちょうど20年前の2003年度の愛知県の教員採用試験の小論文(論作文)は、かなりハイグレードな問題を出していました。
私が教員採用試験対策講座の指導を始めたのが、20年前ですから、ちょうどその頃の問題です。
20年が経っているので、既に過去問とも言えないほど、古くなりましたが、問題そのものが提示している教育的課題や教育的思考は、永遠に重要なものです。
こういった古い問題を紐解き、新たな教育的な思考に結び付けることは,とても重要なことです。
まずは、次の課題を読んでみてください。
「ほめる」ということについて、次の文章を参考にあなたの考えをまとめよ。また、それを日常の教育活動にどのように生かしていくか述べよ。
アンドレアが5ドル紙幣をなくした。12歳のリチャードが、それを見つけて先生に渡した。先生はこう言った。「君は正直だね。先生は君のことを誇りに思うよ。」リチャードはこの言葉を聞くと真っ赤になり、ろうばいした。リチャードは、以前にひとのものを、ちょっと盗んだことがあるのだ。先生が彼の正直さをほめたとき、彼は不安にかられた。「もし先生が、あのことを知ったら・・・・・」と考えたのである。リチャードは先生と接触することを恐れて、自分の殻にとじこもりがちになった。彼は自分に、こう言いきかせていたのだ。「先生にぼくのことをこれ以上知らせてはならない。もしそうしたら、先生はぼくのことを誇りに思ってくれなくなる。ぼくのことを、恥だと思うかもれない。」
2003年度 愛知県教員採用試験 小論文課題
(引用文は、ハイム・ギノット『先生と生徒の人間関係』)
どうでしょうか?
かなり重い問題です。
「ほめる」ということについて小論文を書くわけですが、どう書くか、難問ですね。
引用文の著者であるハイム・ギノットは、アメリカの臨床心理学者で、親と子供のコミュニケーションの研究で有名な人です。
有名な著書には、
『子どもの話にどんな返事をしてますか? ―親がこう答えれば、子どもは自分で考えはじめる』
『子どもに言った言葉は必ず親に返ってくる―思春期の子が素直になる話し方』
『親と子の心理学―躾を考えなおす12章』
『先生と生徒の人間関係―心が通じ合うために』
『ギノット博士の教育法―教師と子どもの人間関係』
などがあります。
一番上の書物の中で、ギノット博士は、次のように述べています。
「心理療法では子供に向かって『きみはいい子だ』とか『すばらしい』などとは言わない。評価を下すような称賛は避けるのだ。なぜか?
子供の助けにならないからだ。そうした言葉は不安を生み、依存を招き寄せ、子供を防衛的にさせる。また、自主性や自信を育むことにもつながらない。
なぜなら、自主性や自信は他者の判断によってではなく、内的な動機や評価によって育まれるからだ。
子供は評価を下す賞賛のプレッシャーから自由でなければならない。さもないと、子供は他者からの承認を必要とする存在になってしまう。」
「ほめれば子供に自信がつき、安心感を覚えるようになると、たいていの人は信じている。
しかし、現実には、子供を緊張させ、無作法なふるまいに導く可能性がある。」
ギノット博士の主張ではありますが、「ほめて伸ばす」というのが当たり前のようになっている最近の風潮に警鐘をならす考え方です。
教員採用試験でも、受験者は面接などで、「ほめて伸ばす」を繰り返し強調します。
本当に「ほめる」だけで子供は伸びるのでしょうか?
自己肯定感や自己存在感や成功体験は、「ほめる」ことで感じさせることができるのでしょうか?
もしかすると、「ほめる」というのは、子供を「ほめたい」という教師のエゴではないのでしょうか?
そんなことを考え直させるギノット博士の警鐘です。
今から20年前の教採受験者のほとんどは、ギノット博士の著書など読んでいなかったでしょう。
ですから、試験で引用された部分だけを読んで、自分の考えをまとめて、「ほめる」という指導について考えを書く必要がありました。
皆さんなら、2003年度のこの愛知県の小論文の問題にどう答えますか?
どんな考えを文章にまとめますか?
「ほめる」を最大の指導だと思っている多くの方々は、ギノット博士の主張をどう思いますか?
小論文の課題としては、ギノット博士の主張は知らないものとして書くしかないでしょう。
ギノット博士の主張を知らなかったとして、教採の小論文課題に引用された文章だけを呼んで、どんな考えをめぐらすでしょうか?
20年前の愛知県の小論文課題、素敵ですね!!
追記:この小論文課題に挑戦してみたい方は、執筆した小論文を公式LINEにベタ打ちして、【河野正夫とトーク!】(公式LINE) までお送りくだされば、私が真摯にコメントさせていただきます!(文字数は,特に制限しません。)
河野正夫
レトリカ教採学院
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