教育の情報化 -デジタイズとデジタライズ-

「その昔,昭和の時代には,フイルムを使った,アナログのフイルムカメラが主流でした。

カメラにフイルムを入れて,24枚なり,36枚なりの写真を撮り,そのフイルムをカメラ屋さん(写真屋さん)に持って行って,現像してもらい,紙の写真にしてもらっていました。

平成になって,デジタルカメラが登場しました。デジタルカメラは,フイルムを使わず,データで写真を記憶します。

でも,まだ,平成の初期は,そのデータをカメラ屋さん(写真屋さん)に持ち込んで,紙の写真にプリントアウトしてもらったり,自分が持っている写真用のプリンターで紙にプリントアウトしたりしていました。

平成後期から,令和にかけては,よほどの理由や機会がなければ,写真を紙にプリントアウトするということは,なくなりました。

今では,写真は,主にスマートフォンで撮って,スマホの画面や,タブレットの画面で見るというのが主流です。

また,他人に見せる場合も,インスタグラムやツイッターなどのSNS(ソーシャルメディア)に投稿して,見てもらうというのが,主流になってきました。

昭和の昔は,写真と言えば,現像された紙の写真でした。

フイルム式のアナログカメラから,データ式のデジタルカメラに変わっていっても,最初のうちは,写真のデータから,紙にプリントするという習慣が残っていました。

でも,今では,ほとんどの場合で,写真は,データのまま,スマホやタブレットなどのデジタルデバイスで見ますし,また,SNSに投稿して,多くの人に見てもらいます。

アナログカメラから,デジタルカメラに変わったのは,単に,道具が進化しただけです。

フイルムを現像して紙の写真にするか,データをプリントアウトして紙の写真にするかだけの違いです。

テクノロジーの専門家は,このことを,「デジタイズ」(digitize) と呼んでいます。

フイルムやデータから紙の写真にしていた写真文化が,もはや,紙を必要としなくなり,スマホなどの画面で見たり,SNSのサイトなどで共有されるようになったりして,もはや写真というものが,紙から完全に離れて,デジタルの世界でやりとりされるようになり,写真文化が変わるレベルにまで達することを,テクノロジーの専門家は,「デジタライズ」と呼んでいます。

よく,「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の違いなどと言われているのは,こういった違いです。

音楽でも,回転するレコードがCDになったのは,デジタイズですが,音楽がデータとして,スマホやその他のデジタルデバイスでダウンロードして聞くという文化が主流になれば,デジタライズと言えます。

昭和や平成の初期は,音楽はレコードやCDを買って聞いていましたが,今は,楽曲のデータそのものを購入して,ダウンロードして,手持ちのデジタルデバイスで聞きます。

これがデジタライゼーションです。

デジタライゼーションが起これば,その分野での文化が変わり,生活様式といったものが変わってきます。

写真の例で言えば,昭和の昔は,アルバムに貼ってある写真を見て懐かしむという写真文化が,「インスタ映え」という新しい文化に転換されました。

もうひとつだけ,例を挙げさせてください。

昔は,電話は,すべて,固定電話でした。

そこから,携帯電話が登場しました。

最初は,電話機能しかなく,持ち運べる電話でした。

そこに,付随的に,メール機能や,ネット機能が付きましたが,やはり,持ち運べる小さな便利な電話(ガラケー)でした。

ところが,iPhoneをはじめとするスマートフォンが登場して,全てが変わりました。

いまや,スマートフォンは,"phone"(英語で電話)という言葉が残っていますが,もはや,「電話」ではありません。

スマートフォンは,今では,私たちの日常生活のプラットフォームです。

調べもの,ネットバンキング,様々な予約,友人との連絡,SNS(ソーシャルメディア),動画や音楽の視聴,料金の支払い,多種多様なアプリの活用で,私たちは,スマホで,何十種類,何百種類のことを行っています。

スマートフォンで,いわゆる,「電話」をするというのは,あまりないかもしれません。

時々,昭和世代の人から,スマートフォンに「電話」がかかってくることもありますが,平成・令和の世代では,音声通話も,いわゆる「電話」を使うことは少ないでしょう。LINEなどのアプリで音声通話をすることでしょう。

スマートフォンは,今では,電話機能もあるけれど,基本は,多彩な機能をもっているデジタル・デバイスです。

こう考えてくると,

固定電話が,持ち運べる携帯電話(ガラケー)になったのは,デジタイズのレベルと言えるのかもしれません。ただ,持ち運べるという便利さを獲得しただけですから。

でも,スマートフォンになって,電話機能の役割の何百倍,何千倍も,他の機能が重要になり,生活や仕事の基盤となってくると,スマートフォンは,電話というよりも,万能に近いデジタル・デバイスとなっています。このレベルなら,デジタライズと呼べるのでしょう。

最近では,デジタライズを進めて,生活様式や,仕事の仕方,生活・仕事・文化のプラットフォーム自体を変えていくことを,

デジタル・トランスフォーメーション

DX

と呼んでいます。

単に,パソコンやタブレットを使うだけでは,デジタル・トランスフォーメーションではありません。

ちょっと便利になるだけです。

これまで,手書きだったものを,パソコンに打ち込むだけでは,デジタル・ランスフォーメーションではありません。

手書きをパソコン入力にするレベルでは,単なるデジタイズです。

デジタル・トランスフォーメーションは,生活の様式を変えます。

デジタル・トランスフォーメーションは,仕事の在り方,文化の様式,生活の仕方を,根本的に変えます。

いま,流行りの言葉だから,デジタル・トランスフォーメーションに着目しているのではありません。

なんとなくカッコいいから,デジタル・トランスフォーメーションについて語っているのではありません。

パソコン・タブレット・スマホなどを使って,これまでのアナログ,手書き,対面での仕事や手続きを,インターネットを介してできるようにして,ちょっと便利に感じるくらいでは,せいぜいが,デジタイズのレベルで,デジタライズではありません。ましてや,デジタル・トランスフォーメーションとは言えません。

このことは,学校教育では,顕著に見られるでしょう。

確かに,学校教育の現場には,パソコン・タブレットが導入され,教師も生徒も,手持ちのデジタル・デバイスをインターネットにつないでいます。

でも,まだまだ,学校現場では,アナログな考え方が主流で,手書きだったものを,パソコン・タブレットで入力する。あるいは,黒板に提示していたものを,タブレットなどで見るというような,せいぜいが,デジタイズのレベルです。

オンラインで学び,非対面でも学び,テストもオンライン,面談もオンライン,成績の通知もオンラインといった,オンラインでのプラットフォームをつくって,デジタライズを完成させている学校は,少数派でしょう。

基本は,昭和と何も変わらないけれど,ちょっと便利なパソコンやタブレットを使っているという程度の学校が,圧倒的な大多数でしょう。」


河野正夫
レトリカ教採学院


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