ゴボウを持ってキリンで駆け抜けよう

ここにキリンで駆け抜ける時に使われることになるゴボウがある。
ここにゴボウを持って駆け抜ける時に乗ることになるキリンがいる。
両者の距離は今、7500kmと12年離れている。

「次のサボテンを右に曲がってくれ」
実家がゴボウ農家の退魔精神科医、山岸宗一郎はドライバーに告げた。その界隈では「魔断の宗一郎」と呼ばれ、恐れられた、あの男だ。今日も義眼のダイアモンドがキラリと光る。
「次も右だ。その次も右。」
宗一郎の隣にいるのはメーリアだ。青白い顔でぐったりとしている。彼とメーリアの間には1本のゴボウがある。このゴボウが、やがてキリンで駆け抜ける時に使われるゴボウである。
しかし今はまだ誰もそのことを知らない。
宗一郎は自分とメーリアのシートベルトをチェックした。車がもう一度右に曲がり、慣性に従ってメーリアの首がぐらりと傾く。宗一郎はバックミラー越しにドライバーを見つめる。
「魂の分離に必要な回転は7rpmだ」
その言葉を合図にして、ドライバーはウインカーを根本から折った。それをそのまま窓から放り捨てる。宗一郎も同じようにゴボウを放り投げた。右ウインカーはもう二度と消えない。メーリアの目蓋がビクビクと震え出す。セブンはヘブンに通じる。
「……天国への扉が開くぜ」
タクシードライバーは再度右に曲がる。

砂埃を上げて右折し続けるタクシーから380000kmほど離れた月面。ここに研究所がある。今日また苦悶の表情のまま凍りついた研究員の首だけが発見された。これで5人目。現実主義の科学者達もそろそろ疑いたくないことを疑い始めてくる。残りは3人と4体と157匹。

【続く】


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