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憂鬱な朝から一日が始まる

※Mから聞いた通り忠実に慎重にそのMの身になって記す。


この時私は高校二年。世にもおぞましいことであった。

共感できる人も多少はいるかもしれない。

これは本当に子の私を苦悩に陥れた出来事である。


ある夜、私はふと目が覚めてしまったのである。

多分あれはまだ日が上っていない冬の寒い朝4時くらいだろうか?

少し目が覚めただけで、まだ寝ぼけがあるというか意識が朦朧としている。

そんななか、幻聴か?何か”音”がするのである。

「うん?これは手と手を叩いて拍手するような音。しかし拍手というほど音は大きくない。というかそもそも夜中に拍手などあり得ない。なんなんだ...。」

私の意識はその音の原因に恐れと興味を抱きつつ徐々にはっきりしてきた。

凄まじい勢いで耳が冴えてきた。

微かな音なら全て拾う、聞き逃しなど絶対に無いとでもいうかのように耳を澄ます。

会話?何かを話している?高と低?とにかく人間の声だ。

奇妙な声が断続的に不規則に聞こえる。

すっかり目覚めた私は思考を巡らす。

...


気付いたら私は酷く身震いしていた。

呼吸も荒くなっている。寝ている姿勢故にそれがはっきりと分かった。

嫌でも耳に雑音が入りこんでくる。今の私の耳はこれとないほどまでに敏感になってしまっている。

私が心底 狼狽していると数分後、重い足取りをした巨体がそのままトイレへ行く。

この時間帯には似つかわしくない、トイレットペーパーを回す音が響く。

その後再び部屋に戻り一言二言喋ったのち静かになった。
(Mはこれ以降そのトイレと奥の部屋には近づけなくなったという)

寝れるはずがない。いまだに身震いしているのだぞ。

私はそのまま朝を迎えることになった。

私は家にいることに吐き気を覚え、すぐに学校へ行った。

何もかもが頭の中を素通りしてゆく。先生の言っていることが何も入ってこないのである。


そしてその日から始まったのである。

毎晩毎晩深夜3~4時に目が覚めてしまうという理解不能な癖。

私は毎深夜起きるたびに物凄い力で自分の耳珠(じじゅ)を押さえつけた。

「どうか意識落ちてくれどうか意識落ちてくれどうか意識落ちてくれ」と願うばかり。

耳の内側から何かコンクリートのような物体が耳の中から外に向かって出ていき、そのまま耳の穴付近で完全に固まって一切の耳の機能を停止させてくれはしないかと何度願ったことか...。

そのまま朝になっていしまい寝不足ということも少なくない。

この地獄のような癖は1ヶ月近く続いた。

わかるのだ。いくら深夜に目が覚めなくても。

明らかなのだ。

朝にも関わらず馬鹿みたいに陽気な男。酷使した喉で力を振り絞りどうにか発声している女。

それに気づくたんびに私は意気消沈する。

「あぁ...また憂鬱な朝だ...。」

昼時。

母がその手で握ったおにぎりに反吐が出る。そもそも食欲などわかない。


体育の授業後、着替えをしていると一緒にいた友人がこう言ったのだ。

「今日かーちゃんが珍しく寝坊してさぁ、弁当ないからあとで一緒に購買行こうぜ」

私は流石に聞けなかった。「いつもに比べて疲弊していなかったか?」と。


また、私は驚きの情報を得た。(まさかこのタイミングで...)

私の同級生に新しく妹ができたというのだ。実際に写真も見た。そこには生まれたての赤ん坊と私の同級生が写っていた。

(この年齢層だとこれくらいのスパンで欲が...)

私はそれから共感者、自分と同じ悩みをもつ人はいないかとネットに助けを求めた。

我ながら唖然とした。

私以上に辛い重いをしている人が予想以上にいたのである。

しかし、(それは悩み相談的なものであった)その答えとしては私には冷たく感じられた。

「大人になったらわかる」や「究極の愛」などで簡単に言いくるめられてる。

高校生の私はもう開き直るしかなかった。

「こんなもんなんかなぁ。しょせん大人だし。自分より辛い人たくさんいるし...。」

次第に私は落ち着きを取り戻し、地獄の癖もすっかり無くなり、どうにか正常な毎日を過ごせるようになった。


先日Mから一人暮らしをするという連絡が入った。

やはり気になるのはこれから空くMの部屋だ。私は恐る恐るその部屋はどうするのかとMに問う。

「あの部屋?あの部屋なら妹が入ることになった。あっ、でも言っとかなくちゃね。雑音には注意しろって。もちろん霊的なものじゃなくて。」

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