#117 わたしと家族
20歳のとき、実家を無理矢理飛び出し上京した。その後も年に一度くらいは実家に顔を出し、30歳まではなんとか関係を繋いでいた。結婚の挨拶に行ったのが最後だ。
厚かましいことに、それまで仕送りを貰っていたが、写真家になる夢(…だったのかな?)は捨てて真面目に働くことにしたので、今後の援助はいらないことも伝えた。
その後、すぐ離婚。借金苦とその果ての自己破産。破産後の極貧生活。安酒あおって寝るだけの毎日。
父は仕事人間。優しかったと思うが、心からコミュニケーションをとった記憶はない。父に収入があったおかげで、我が家の暮らしぶりは決して悪くなかったはずである。
母はクリエイティブで読書家で、動物好き。わたしの趣味嗜好は母から受け継いだと思う。美人でさっぱりした性格の、自慢の母だった。
兄はイケメンでスポーツ万能。子供の頃からよくモテていた。性格もいい。公務員というのもまた、実によろしい。
これで犬まで飼っていたわけだから、いい家族だったはずなのだ。わたしさえいなければ。
わたしはずっと、自分はこのよくできた家族の形にハマらない異物だと感じていた。それこそ、幼少期の頃から漠然と。
上京して以降、その違和感がどんどん加速していく。相対的に自分がどんどんゴミに見えてくる。家族の存在に安心を得るどころか、劣等感で死にたくなる自分がいた。
家族からの連絡は徹底的に無視して、やがて電話番号も変えた。我ながら人道にもとる行為だが、ほんとうに無理だった。
正直、今でも家族からわたしの記憶を抹消してほしいと願っている。生まれてきてごめんなさい、だからなかったことにしてほしい。
もし、あなた達と関わっていたら、わたしは家族に恥をかかせたり、困らせたり傷つけたりすることしかできなかったでしょう。だから離れたかったし、もう二度と会いたくないんです。
こんなわたしですから、心底誰かを愛することも、愛されることもないでしょう。家族への裏切りを、原罪のように抱えて生きてゆきます。
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