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慢性頚部痛のリコンディショニング

この記事では、頚部外傷に続発する慢性的な頚部痛を想定したリコンディショニングについてまとめています。頚部の障害は疼痛が改善するとすぐに復帰してしまうことが多く、頭頚部の機能不全が残存したままプレーしている選手を多く見かけます。そのため何度も受傷を繰り返し、慢性化していることも少なくありません。頚部の障害は丁寧なリコンディショニングとトレーニングを実施することで再受傷する可能性を下げることは可能です。頭頚部の障害で悩むトレーナーやセラピストの方の一助になれば幸いです。


これまでに公開してきたその他の疾患に関する段階的リハビリテーションについては下記からご確認ください。

頸部痛に対するリハビリPhase1(疼痛緩和)

<Introduction>

今回は頚部痛の改善方法についてまとめていきます。
本noteでは、コンタクトスポーツにおけるバーナー症候群、それに続発する継続した頚部痛を想定しています。

外傷を起因としない慢性頚部痛を有する方にも汎用性のある内容となっています。

バーナー症候群は腕神経叢に対する圧迫、伸張、直達外力の3つのストレスのいずれかが加わることで受傷すると言われています。

圧迫ストレスに起因する頚部痛は、頚部の伸展と側屈が強制されることで椎間孔が狭窄し、神経根が圧迫されて起こります。

伸張ストレスに起因する頚部痛は、対側への頚部側屈が強制されることで神経が過度に伸張されることで起こります。

直達外力に起因する頚部痛は、腕神経叢に対する直接的な外力が加わることで起こります。

今回は復帰までの過程を3つのPhaseに分けて、疼痛の緩和、機能改善、競技復帰に向けて必要なトレーニングをまとめました。


<Phase1>

Phase1は急性期として考えています。
コンタクトなどで頚部痛や上肢の痺れが生じ、頚部の可動域制限も著明な時期です。

疼痛によって頚部の屈曲・伸展・回旋の可動域が制限されている場合が多いので、頚部のトレーニングは最小限として解決すべき患部外、または患部に直接関係してくる他の問題点に対してアプローチしていきます。

頚部障害を繰り返している選手は、頭頚部・胸椎のアライメント不良を起こしていることが多いです。上位交差症候群と言われる胸椎・下位頚椎の後彎、上位頚椎の前彎を強める姿勢です。

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このような姿勢は頚部の安定性が低下しやすく、再受傷のリスクを高める可能性があります。Phase1では不良姿勢を修正するためにできることを行っていきます。また頚部の障害を繰り返していると姿勢不良だけでなく、位置覚の低下による頚部のリポジション能力や動眼神経のコントロール能力が低下すると言われています。

ですのでPhase1では疼痛に対する対応、可能な範囲での筋収縮、動眼神経コントロール練習、患部外エクササイズ、アクティビティの維持を行っていきます。頚部の屈曲・伸展可動性の改善、神経の易刺激性が消失が得られたところでPhase2へ進みます。


<Light targeting>

Phase1の時期で行える眼と頭頚部の協調性、動眼神経のトレーニングとしてLight targetingを紹介します。

点灯したライトを眼で追いかけ、続いて頭部を移動させる、という練習です。

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頭部を動かす際、疼痛がない範囲で行うようにします。

眼と頭頚部の動きを協応させるトレーニングです。

ランダムに光るライトやセラピストが持つ指標物等を使用して行います。
実際の方法は動画をご覧下さい。眼の動きや脳神経系のトレーニングは脳震盪後でも軽視されている事が多い印象です。タックルに行く際など、相手との距離感が適切に判断できないために不良姿勢でタックルしてしまう可能性があります。そのため、Phase1の段階で眼と頭頚部の運動協調性、動眼神経機能の改善を目的としたトレーニングなどは実施しておくと良いでしょう。


<Walking while balancing>

頭部を固定したまま、不安定な状況に対応するトレーニングを行います。

バランスマットなど柔らかい素材のものを下に敷き、頭部にパッドやハーフストレッチポールを乗せて歩行をします。

その際に頭部に乗せたパッドが落ちないようにしましょう。

動画内ではさらに難易度を上げて、棒の上を歩く練習を紹介しています。

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体幹と頭頚部を分離させて運動するトレーニングです。動眼神経のトレーニングにもなります。

難易度が高ければ、ターゲットに目線を合わせて頭頚部を固定し、体幹を左右に揺らす動きから開始すると良いでしょう。

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Phase1の段階では、眼の運動や頭部の固定にフォーカスしたトレーニングも行えると良いでしょう。


<Stretch(広背筋・大胸筋・小胸筋)>

Phase1では、頚部のストレッチはまだ疼痛があるのであまり行いません。
この時期でも行える広背筋、大胸筋、小胸筋のストレッチを紹介します。
これらの筋は短縮すると姿勢不良につながりやすいので、頚部の疼痛に注意しながら行います。

広背筋のストレッチです。広背筋は腸骨稜や肋骨から起始し、上腕骨へ停止します。立位で壁にもたれかかるようにすることでストレッチができます。

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この方法で伸張感が少ない場合には、別の方法で行います。四つ這いから片手を前方に伸ばし、殿部を後方へ下げます。さらに腋窩を外側へ突き出すようにすることでより広背筋にストレッチをかけることができます。

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さらに肩関節を外旋位にすることでより広背筋をストレッチできます。

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頚部の疼痛がない方法で、広背筋をストレッチしていきます。


大胸筋の上部線維は肩関節90°外転位で最も伸張されるので、その肢位で大胸筋のストレッチを行います。

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ただし、この方法では大胸筋の下部線維は伸張されません。
そこで上肢を挙上・外転位、掌側を前方に向けて体幹を対側へ回旋させると大胸筋全体をストレッチすることができます。

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小胸筋は、アナトミートレインの中のディープ・フロント・アーム・ライン(DFAL)に含まれ、上腕二頭筋、橈側の筋膜と連結しています。

そのため前腕を回内位として母指の背側を壁につけて行うことでより効果的にストレッチすることができます。

大胸筋のように体幹の対側回旋も行いますが、加えて体幹全体を下方へ引き下げるようにするとより小胸筋の伸張感を得られます。

小胸筋が短縮している場合には、烏口突起を後方へ押し込みながら行うことで肩へのストレスも減らして効率的に小胸筋をストレッチすることができます。

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いずれのストレッチにおいても頚部の疼痛がないことを確認した上で、可能な方法を用いて行うようにしましょう。


<Cervical spine mobilization>

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