見出し画像

肩関節術後の段階的リハビリテーション

このnoteでは、肩関節不安定症に対する手術後を想定して、コンタクトを開始するまでの段階的リハビリテーションについて解説しています。サッカーやバスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボールなどコンタクトスポーツで発生することの多い肩関節の前方脱臼。しかし、多くの現場で頻度が高い外傷ではないため、リハビリの経験を積むことが難しく、進行するうえでの留意点などわからない方も多い外傷だと思います。今回は肩関節術後からコンタクトを開始できる時期までに獲得しておきたい機能、リハビリ時の注意点などをまとめました。


これまで足関節捻挫、膝関節外傷術後、ハムストリングス肉離れのリハビリテーションについてもまとめていますので、ご興味のある方はこちらもぜひご覧ください。

肩関節術後のリハビリPhase1(固定期)

<Introduction>

今回は外傷性肩関節不安定症術後のリハビリテーションについてまとめていきたいと思います。つまり肩関節を脱臼し、手術をした後のリハビリテーションです。

肩関節脱臼の術後リハビリに関わる機会はそれほど多くないと思います。コリジョンスポーツの現場でも、チーム内で年間2例前後ではないかと思います。

手術後のリハビリは時期に応じて機能回復を確認し、段階的に進めていく必要があります。頻度が高くはないが、確実にその機会は訪れる。そんな怪我だからこそ、備えておきたい外傷ではないかと思い、このテーマを選択しました。

肩関節脱臼は、ラグビーやアメフトなどのコリジョンスポーツで多く発生します。サッカーやバスケットなどのコンタクト競技、人と接触する競技では時々生じる外傷です。そこで今回はReturn to Contact、つまりコンタクトを開始するまでのリハビリテーションについて解説していきます。

今回はPhaseを4つにわけて進めていきます。

Phase1は固定期間で、修復部位に全く負荷をかけたくない時期ですが、何もできないわけではありません。

Phase2になると固定具は外れますが、まだ修復部位への負荷を大きくかけることができない時期です。

Phase3は、徐々に肩の機能を回復させていく時期になります。

Phase4は、積極的に機能回復を図り、コンタクトに備えていく時期です。

それでは、Phase1から始めましょう。

<Phase1>

Phase1は術後の固定期間を想定しているので、執刀していただいた医師の指示に従うようにしてください。術式にもよりますが、おおよそ3~4週間になると思います。

肩関節不安定症に対する手術は大きく2つに分けられます。解剖学的修復術と、補強術です。

解剖学的修復術は、骨の移植などを行わず、破綻した構造を解剖学的に修復する術式です。関節包の縫縮など行っていますので、縫合部に張力が生じるような運動は避けなければなりません。補強術は、肩甲骨の烏口突起を移植して補強するものが主流です。骨を移植した場合、移植骨が生着するまでは絶対にストレスをかけてはいけません。どのような手術を行って、禁忌となる運動はどのような運動なのか、医師の確認をしっかり取りましょう。

いずれの術式においても、Phase1では患部の不動が徹底されます。固定具装着時、就寝時のポジショニングなど、患部の回復を妨げない管理が大変重要な時期となります。Phase 1のゴールは、肩関節周辺の筋に過剰な緊張をうまずに、術後の炎症を消退させていくことになります。

リハビリテーションとしては、患部外を硬くしないようにするための肘の曲げ伸ばしや肩甲骨の運動、ポジショニングや日常生活での注意点などがありますのでお伝えしていきます。


<Positioning/ADL>

手術後は通常スリング固定が指示されます。
(医師の指示に忠実に進めましょう)

基本的には肩関節内旋位を保持する形で首からスリングを下げています。スリングの着用において注意してほしいポイントは、肩が過度に挙上されないようにすることです。

画像1


他に、肘がスリングの中で安定しない位置に前腕が来てしまう、特にスリングが後方にずれているような場合、肩関節が伸展位となってしまい疼痛の増悪を招く可能性があります。

画像2

ADL上の注意としては、患側で重量物を持ち上げることや、洗髪動作などで上肢を挙上したり、強くものを握ってしまうことがないように注意を促します(烏口突起の移植を行ったときは、上腕二頭筋の収縮が入らないよう注意しましょう)

寮生活の学生などはバイキング形式でご飯を食べたりするので、配膳の際に患側で重い食器などを持つことがないように指導します。

就寝時のポジショニングについても注意点があります。ポジショニングを行わずに仰臥位になると、肘が肩関節より下方に位置し、多くの場合自然と肩関節が伸展した状態になってしまいます。このような状況にならないよう、タオルやクッションなどを用いて肘が下がらないように工夫しましょう。

画像3


<Scapular retraction/protraction>

Phase1で実施しておきたいエクササイズを紹介します。

説明の都合上スリングを外していますが、実際に行うときはスリングをつけたまま行ってください。

最初のエクササイズは肩甲骨のProtraction(前方突出)とRetraction(後方牽引)です。肩甲骨の運動というよりは、肋骨の動きを引き出すためのエクササイズとして用いています。そのため、選手にはみぞおちを丸める動きと開く動きとして指導します。

画像4


肋骨や鎖骨の動きが悪くなると上肢の動きが悪くなるので、肩甲骨や胸椎も含めた1つのユニットとして動かしていきます。注意点は腕の力が入りすぎないようにすることです。

上腕二頭筋の収縮が入ると、烏口突起の移植術を行った術式では、移植骨にストレスを与える形になりますので気をつけましょう。また、骨盤ごと後ろに倒れていかないようにしましょう。

画像5

画像6


<Shrug ex>

2つ目のエクササイズはShrugという動きで、肩甲骨の挙上と下制を繰り返します。

画像7

このときも肩甲骨の挙上時に上腕の力が入らないよう注意してください。肩甲骨周囲の可動性を維持すること、肩甲骨の動きや首の固定に必要不可欠な僧帽筋の機能を低下させないことが目的です。背中は丸めたり反らせたりする必要はないので、自然に座った状態で肩甲骨を上下させます。

<Thoracic slide>

ここから先は

16,998字 / 100画像 / 1ファイル

¥ 4,400

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?