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#2 空中で暮らす世界 SPECIAL EPISODE


終了のベルが鳴り、午前の授業が終わった。
空中都市『Highland』では7歳から科学と工学を学ぶ。
重力に逆らうための様々な科学技術を、小さい頃から頭に叩き込まれる。
将来空中都市の発展に貢献する事が、最も良いことだと両親から教わった。
私は今13歳。
夢は当然科学者で、磁気エネルギーか超浮遊技術のどちらを研究するか、とても迷っている。
大学まで一貫教育で飛び級が許されていて、来年大学受験をするつもり。
親友のリナも受験をしたいと考えていて、彼女は生物学を専攻すると決めているそうだ。
空中都市では地上と環境が違うので生態系が独自に発達している。
だからリナは、生物たちの進化を私たち人間に応用するのが夢らしい!素敵。
 
リナとカフェテリアでランチを済ませたら、
午後は特進クラスで飛行訓練の後、グラビフットをクラスのみんなと楽しむ。
空中でフットボールする、空中都市では人気のスポーツ競技。
今日は強風予報のため、学校全体を覆う超薄型強化ガラスで出来たドーム屋根が閉められている。
屋根が開いている方が高度を楽しめるから、今日は少し残念。
リナとランチを食べながらグラビフットの有名選手の動画を見ることにした。
ボールを蹴る前の、縦方向に斜め横のひねりを入れた体の回転に、
思わず二人で声を上げてしまう。
「羽根が生えてるみたいな動き!」
「本当、鳥と同じ動きするよね」
私もこの動きをしてみようと心に決めた。
興奮冷めやらぬうちに、飛行訓練に向かう。
 
着替えてグラウンドに向かう時に先生から声をかけられた。
夏の自由研究で作成した私のナノマテリアルが何かの賞を受賞したらしい。
ママにアドバイスをもらったから、ちゃんと感謝しなきゃ。
ママの喜ぶ顔が浮かぶ。すごく喜んでくれそう!
 
ふと窓の外を眺めると、低学年の子たちが飛行装置を着けてジャンプの練習をしていた。
高所や空に慣れるためには、小さい頃から恐怖と戦って仲良くなるしかない。
空中都市では飛行能力が生活する上で一番必要な能力になる。
よく見ると、ジャンプ台の横に一人泣いて座り込んでいる子がいる。
私も最初は高いところが怖くて泣いていたなー。
他人事と思えず、ジャンプ台まで走って降りていった。
トレーナーの先生に許可をもらって、泣いている子に話しかけると、
泣きながら挨拶をしてくれた。私は彼女に言う。
「大丈夫。ジャンプする前に、目を閉じてみて。
息を吸ってふーーっと吐いて。
風の音を聞くんだよ。
風は見えないけど、そこにいる。」
まつ毛がまだ濡れたままの彼女が、ジャンプする。うまく風に乗った。
「やった!!」と私は思わず叫ぶ。
見上げると、子どもたちが鳥のように飛んでいた。


空中で生きる人々の暮らし

空を自由に飛ぶ鳥を見ながら、あんな風に飛べたらいいのに、と一度は思ったことはありませんか?
でも、空中を自由に行き来する世界は、意外と過酷なのでしょうか。空中都市に住むことができるなら?このテーマ世界で生きる人々がどのような生活をしているか、想像を膨らませてみました。

気象条件や環境面から考えると、高所はやはり地上と比べると、風や気象条件に直接さらされるため、風速や風向、気温などが生き物にとっては過酷かつ予測が難しいでしょう。これに対処するために堅牢な建築と高い気象予報技術が必要です。加えて、高所なので気圧が低くなり、酸素濃度も低下します。
これは居住者の健康に影響を与えるため、適切な気圧と酸素を安定供給するシステムが必要です。酸素が欠乏する事で起きる高山病になると、頭痛・吐き気・息切れ・錯乱などの症状が現れます。現在でも、高地トレーニングといって、わざと標高1000m以上の高地でトレーニングして運動能力向上を目指すトレーニング方法があります。人間の環境への適応能力を活かしたトレーニング方法として、古くからアスリートに提供されています。
小さい頃から標高の高い過酷な環境に慣れて育つため一定の身体能力があるとは考えられますが、身体能力を高めたり、身軽な身体を維持するために、ある種のトレーニングは必須になると考えます。適切な筋力やバランス感覚が整う事で、単独飛行技術を使った高所での作業能力を得る事ができます。

学校では科学、技術、エンジニアリング、数学などを重視するSTEM教育が実施され、次世代の宇宙航空・浮遊技術者や素材開発・エネルギー開発のための科学者が育成されます。
空中都市間の移動はモビリティを使いますが、ちょっとした高さや距離に関しては、単独飛行技術を使って自由に行き来するでしょう。移動時にはそれぞれがぶつからないように、交通ルールを守るためのMRメガネ(Mixed Reality技術により現実世界にデジタル世界の情報を付加して見ることができる)をかけることが必須です。ほとんどの移動はAIによる自動運転モードが使えますが、強風の日などネットワークへのコネクションが悪い日があるため、自分でも自在に操縦できる技術と、細かい交通ルールを知っていないと、大事故になってしまいます。 

浮かせるとは重力との戦いのため、この世界では軽い事が何よりも価値があることとされるでしょう。小さい頃から、手に持つとグラム単位で大体の重さを計る事ができる訓練がなされます。軽量な素材に対して敏感になります。
また水やエネルギーなど循環型社会が実現されているため、持続可能な素材であることも重要なポイントとなります。空中都市内では水耕栽培や培養技術による工業型農業が中心となり、地上に残された農業地域に大規模な農地と農場が運営されていると考えられます。海の食材もいくつかの漁場による養殖が中心になっているでしょう。
 
地上よりも空に近い空中都市では独自の文化が発展し、アート、音楽、パフォーマンス、映像などユニークなものがたくさん出てくるでしょう。風や星の物語が数多く作られ、羽を持つ鳥や昆虫は信仰とまではいきませんが敬われる対象となるでしょう。
このような世界において、服の機能的な役割と価値観変化を反映するファッション的な側面を考えてみると、例えば機能面でいえば、防風・激しい寒暖差に耐えらえる・軽量などの機能が備わっていることが最重要となってきます。体を鍛えバランス感覚を大事にするため、肌に近い部分にはフィット感のあるものを求めることが考えられます。
価値観の変化で言えば、小さい頃から空中都市での生き方をしっかり伝えるため親子の繋がりが強くなり、家族はより支え合うようになるかもしれません。そのため祖先のルーツや、家紋のような印を誇りにするような価値観が大事にされることも考えられます。空中という空間が新たな生活様式や文化を創り出し、ある種過酷な状況と共生して、支え合い楽しんで生きているでしょう。

(文・宮川麻衣子/未来予報株式会社)


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