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バイクで訪ねる世界遺産 古都奈良の文化財

奈良県には現在3つの世界遺産があります。『法隆寺地域の仏教建造物』『古都奈良の文化財』『紀伊山地の霊場と参詣道』です。

今回はその中でも奈良県の最北端、奈良市に位置する『古都奈良の文化財』をバイクで訪れてみましょう。

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《奈良市観光協会ホームページより》

『古都奈良の文化財』は単一の施設での登録ではなく、8つの資産が1つの文化遺産として登録されているのが特徴です。この8つの資産とは、【興福寺】【春日大社】【春日山原始林】【東大寺】【元興寺】【平城宮跡】【薬師寺】【唐招提寺】です。

これらは全て街中に集中していますので、バイカー好みのワインディングロードなどをご紹介することができません。

ですが、「ゆったりと優雅に古都を走りたい」という方や、「小回りが利くバイクでトコトコ走って世界遺産を巡りたい」という方にはピッタリです。

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では、実際に巡りながらそれぞれを見ていきましょう。

『古都奈良の文化財』は大きく3つのエリアに分かれています。

【西の京エリア】薬師寺・唐招提寺

【平城宮跡エリア】平城宮跡

【奈良公園エリア】興福寺・春日大社・春日山原始林・東大寺・元興寺

まずは西の京エリアから訪れたいと思います。


薬師寺

最初は、薬師寺(やくしじ)です。

大阪方面の阪奈道路から来ても、名古屋方面の西名阪自動車道から来ても最寄りの場所にあります。

薬師寺の南駐車場は、駐車料金《バイク》100円です。

薬師寺は、680年に天武天皇が皇后の病気平癒を祈って発願されたお寺です。薬師寺の名の通り、御本尊は薬師如来(やくしにょらい)。薬師如来は薬壺を手に持ち病気を治してくださる仏様で、なんとか皇后の病気を治してほしいという天武天皇の優しいお気持ちが伝わってきます。

薬師如来の両脇におられるのが日光菩薩(にっこうぼさつ)と月光菩薩(がっこうぼさつ)。『薬師如来さんがお医者さんやとしたら、日光菩薩はお昼を、月光菩薩は夜を担当してくれる看護師さんみたいなもんやと思ってください』と薬師寺のお坊さんが話しておられました。

薬師寺のお坊さんは、みなさんお笑いの修行をされてるのかと思うほどお話が面白いので、もし話されてるところを通りかかったら、ぜひ足を止めて聞いてみてください。

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《東塔 薬師寺ホームページより》

薬師寺は最初、藤原京に建てられましたが、710年の平城遷都に伴い今の地に移されました。

その後、火災や地震により伽藍の大部分は失われて再建されましたが、唯一東塔だけが創建時の姿を残しています。

東塔は国宝に指定されている三重の塔です。間に裳階(もこし)と呼ばれる屋根があるので六重に見えます。この大小の屋根が律動的な美しさを醸し出し『凍れる音楽』という愛称でも親しまれています。


唐招提寺

唐招提寺(とうしょうだいじ)は薬師寺のお隣にあります。唐招提寺は鑑真和上(がんじんわじょう)が開かれたお寺。鑑真和上は、大和朝廷から請われて五度の渡日を試みるも失敗し、六度目でようやく日本の地を踏まれた唐の高僧です。

金堂は奈良時代の建物で、その中に御本尊の盧舎那仏(るしゃなぶつ)、その両脇には薬師如来と千手観音菩薩がおられます。

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《唐招提寺ホームページより》

一般的に千手観音菩薩像の手は42本で表現されている像が多い中(中央で合わされた2本の手以外の、40本の手が1本に付き25の世界を救う 40×25=1,000になるとされる)、こちらの千手観音菩薩像は手がちゃんと千本あります。(現存するのは953本)

非常に厳かな雰囲気に満ちた堂内は必見です。


平城宮跡

次は平城宮跡(へいじょうきゅうせき)エリアです。

369号線を東に向かうと、左手に大きな遣唐使船が見えてきます。その先に駐車場への入り口があり、左に入っていくとバイク専用の駐車スペースがあります。(バイクは料金無料)

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《朱雀門 平城宮跡歴史公園ホームページより》


かつては日本の首都だった平城京。その平城京のメインストリートである朱雀大路(すざくおおじ)はなんと幅が74mもありました。その朱雀大路にある平城宮の正門が朱雀門(すざくもん)です。

その朱雀門を抜けると、、、

目の前を線路が横切っているというシュールな風景が。これは近鉄電車の線路で、平城宮跡の真ん中をブラックジャックの顔の傷のように縦断しており一部物議を醸しています。(おかげで奈良から大阪に電車で通勤している方は、どちら側の車窓からでも世界遺産を毎日眺めることができるのですが)

線路を渡ってさらに進んでいくと、天皇のおられた大極殿(だいごくでん)が復元されています。

平城宮跡は基本的には何も無いところですが、それだけに、往時の風景を想像して奈良時代に思いを馳せるということができる場所です。

街中のこんなに大きな敷地を保存するために動いてくださった先人達の熱い思いが感じられます。


興福寺

奈良で最もメジャーな場所、奈良公園エリア。野生動物の鹿が人と共生している世界で唯一の場所です。(奈良市内では、鹿が普通に道路を渡っていたり、たまに遠出して民家の鉢植えの植物を食べに来たりするというのが日常ですので驚かれないように)

奈良公園周辺はバイクを停める場所が本当に少ないです。猿沢池の近くにある『ならまちセンター』の向かいにある駐車場が1時間100円/24時間最大500円《バイク》で利用できます。

猿沢池のほとりにある大きな石段“五十二段”を上がると、すぐ目の前に興福寺(こうふくじ)の五重の塔がそびえ立っています。

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《阿修羅像 興福寺ホームページより》

興福寺の前身は『山階寺(やましなでら)』という名で、藤原不比等(ふじわらのふひと)によって710年にこの地に移されました。

ここは何と言っても『阿修羅像(あしゅらぞう)』が有名。この像は日本で現存する最古の阿修羅像で、興福寺の『国宝館』で展示されています。

日本のお寺は火災が多く、興福寺もその例外でなかったのですが、阿修羅像が脱活乾漆造(だっかつかんしつづくり)という技法で作られており、中が空洞のため大変軽くできていて比較的運び出しやすかったので、これまで火災を免れることができた、という話を聞いたことがあります。

1300年以上もの間、これらの仏像が守られてきた影には、計り知れない人々の努力があるのだと思います。


春日大社

先ほどの五十二段を登り切ったところから右手を見ると、春日大社(かすがたいしゃ)の“一之鳥居”が見えます。高さ7.75mの大鳥居で日本三大木造鳥居の一つに数えられています。

一之鳥居をくぐって参道をどんどん奥へと進んでいくと春日大社の御本殿に到着します。

春日大社は藤原氏ゆかりの神社で、興福寺とは氏寺氏神の関係にあります。

春日大社のおこりは、その昔、鹿島神宮から武甕槌命(タケミカヅチノミコト) という神様が白い鹿”神鹿”(しんろく)に乗ってやってこられ、御蓋山(みかさやま)に降りられたことにはじまります。

このことから、鹿は神様の使いとして大切に扱われ、現在約1300頭の鹿が奈良公園周辺で暮らしています。

また境内には樹齢800年と言われている『砂ずりの藤』があります。花房が地面の砂にすれそうなほど長くのびるためにこの名がついています。

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ちなみに春日大社の社紋も『下り藤』です。《写真はともに春日大社ホームページより》

毎年12月17日には『春日若宮おん祭り』という大きな祭礼があります。これは1136年から一度も途切れることなく行われていて、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。『お渡り式』という大名行列の再現では、貴族の装束に身を包んで馬に乗る人々などが街中を練り歩くので、奈良市内の小学生はこの日は2時間目で授業を終えて行列を見学しに行きます。

大人になってから知りましたが、このお渡り式は全体のごく一部分で、『春日若宮おん祭り』は17日の午前0時から18日に日付が変わる直前まで、一昼夜絶え間なく執り行われる神事なのです。いつかぜひ見てみたいと思います。


春日山原始林

春日山は平安時代より狩猟伐木が禁じられた春日大社の神域です。県庁所在地で原生林が残っているのは日本でここだけなのだそうです。

じつは、春日奥山ドライブウェイという有料道路があって、この春日山原始林を走ることができます。

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《春日奥山ドライブウェイホームページより》

このマップのBからCの区間は未舗装のままになっています。

『なぜ未舗装なのか?』

それは、やはり春日山が神聖なお山であり、守るべき存在だからなのだと思います。

冒頭で、“バイカーにおすすめできるワインディングロードはない”と言いましたが、バイカー好みの道は確かにあります。むしろ地元ではよく知られたコースだったりもします。(AからBの区間は地元では“奥山”と呼ばれています)

ですが、ここをオススメする気にはどうしてもなれませんでした。

未舗装ですのでオンロードバイク向きではありませんし、だからといってモトクロスタイヤなどで路面を激しく掻いてしまうことなどは、バイカーとして決してやるべき行為ではありません。

バイカーは自然を感じ、自然を愛し、自然とともに生きている存在です。春日山原始林には、感謝をこめて麓からそっと手を合わせましょう。


【春日奥山ドライブウェイ 二輪料金】

全線 : 780円

A〜B区間のみ : 380円(若草山山頂までの往復の料金 山頂から見える夜景は新日本三大夜景に選ばれています)


東大寺

春日大社の参道を下りてきて少し道を逸れると、東大寺(とうだいじ)の南大門が見えてきます。この南大門には仏師 運慶・快慶作の迫力ある仁王像が安置されています。

東大寺は言うまでもなく、有名な『大仏さま』がおられるお寺です。

当時の日本で、このような巨大な仏像を建立するのは大変な難工事であり、743年に聖武天皇が出された「大仏造立の詔(だいぶつぞうりゅうのみことのり)」から9年の歳月を経てようやく、大仏開眼供養会が盛大に執り行われました。

大仏建立までのストーリーは、NHKの『大仏開眼』というドラマで詳しく紹介されています。

大仏さま、子どもの時は見ても何も感じませんでしたが、大人になってから改めて見てみると、『はるか1300年も昔に、どれだけの苦労を重ねて、こんなとてつもないものを人間は作ったのだろう』と思い、胸が熱くなってしまいます。

さて、日本最大の木造建築物である大仏殿はもちろん見てほしいのですが、少し上にある二月堂、三月堂へも足を伸ばしてみてください。

二月堂では、毎年3月12日に『お水取り』という行事が行われています。752年から戦時中もふくめ一度も途切れたことがないこの行事は、2021年になんと1270回目を迎えました。人間の弛まぬ努力の凄みを感じます。

三月堂は法華堂とも呼ばれています。ここは別料金がかかるのですが、ぜひ訪れていただきたい場所です。ご本尊の不空検索観音菩薩(ふくうけんさくかんのんぼさつ)をはじめ、天平時代の仏様がたくさんおられるからです。とても素敵な空間ですのでぜひ。

それでは、東大寺をあとにして駐車場へ戻ることにしましょう。


元興寺

駐車場まで戻ってきたら、そのまま前を通り過ぎて、来た方と反対側へ向かいます。

その先には『ならまち』というエリアが広がっています。この『ならまち』は大部分が元興寺(がんごうじ)の境内だったそうです。かつては広大な敷地を持つお寺だったのですね。

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《うまし うるわし奈良ホームページより》

上の図は、かつての元興寺の境内と、今のならまちの道を重ねたものです。(赤い線で書かれているのが現在の道です)

平城京は道路が碁盤の目のようになっているのですが、ならまちでは鍵状に折れ曲がっている部分があります。これは金堂や南大門の柱の下の大きな礎石が影響しているそうです。じつは今でも床下に礎石が埋まったままの家があります。

元興寺は、飛鳥に建てられた日本最初の本格的伽藍である法興寺が平城遷都とともに移転されたものです。そのため、極楽堂などの屋根に葺かれている瓦は奈良時代よりもさらに100年ほど古い飛鳥時代のものなのだそうです。形状も丸くて特徴的ですので注意して見てみてください。

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8つの資産を一気に巡りましたが、時間的にとても1日で周り切ることはできません。

例えば奈良公園エリアなどは、今回のように歩いて周るのも楽しいですが、時間を短縮するための工夫としてバイクで移動してもいいでしょう。

できれば何日間かかけて、ゆっくりと周ってみてください。また、何回かに分けて奈良を訪れてみるのもいいのではないでしょうか。


最後に

世界遺産は単なる観光地ではありません。世界遺産の意義は、私たちの先祖がこれらを守り伝えてきてくれたことに感謝をして、これからまた自分達が次の世代へと大切に残していく、ということです。

木造の建造物を、1300年以上も守り抜いてきた先達の決意と労力に敬意を持って、人類共通の宝をみんなで守っていきましょう。


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今回この記事を執筆するにあたって、自分が住んでいる奈良市の世界遺産について改めて調べ直してみることができ、よく知っているつもりでわかっていなかったことや、なるほどと感心することにたくさん出会えました。感謝いたします。

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