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ダメだったら、また作ったらいいじゃんね

*あれは小学生の頃だったろうか。家から北に北に坂道を歩いて20分くらいしたところに、ちいさな山のような公園があった。ギリギリ野球ができそうなだだっ広い平地と、1周15分ほどのちょっとした登山コースがある公園だ。登山コースから少し外れたところに、防空壕のようなちいさな窪みがあった。誰が言い出したのか、「ひみつきちにしよう!」とそのちいさな洞穴を、友達4,5人と秘密基地として活用していたことがあった。

コンビニからかっぱらってきたダンボールを下に敷き、ゴミ捨て場で拾った小さな本棚やインテリアのようなものを置いた、世田谷ベース(小学生版)みたいな場所だった。それぞれお気に入りの本を置いたり、かっこいい形の木の枝を飾ったり、小学生ぽさをこれでもかと詰め込んだ場所だ。もちろん、ちょっとエッチな本も置いてたりしたっけ。

週に二、三度、僕たちは秘密基地に集まって、そこでだらだら喋ったりしていた。飽きたら模様替えをしたり、洞穴の拡張作業を行うこともあった。秘密基地ができて三ヶ月ほど経った頃だろうか、大雨警報が出て、学校が休みになった日があった。カンカンに晴れた次の日、学校に行くと友人が「もうたぶん雨で崩れてダメだよ、ちょうど飽きてきてたしいいじゃん?」と冷たく言った。僕は「それもそうだねー」なんて、心にもない肯定をした気がする。

しかし僕はその日の放課後、一度家に帰ってからやっぱり秘密基地へと向かっていた。本当に雨で崩れているのか、本や木の枝や看板はどうなっているのか、知りたかったのだ。公園に着くと、見るからに山の形が少し変わっていた。僕はいつもの道をゆっくりと登りながら、秘密基地へと向かう。

そこに、人影が見えた。一緒に秘密基地をつくっていた、みっちゃんだった。みっちゃんは、学校からパクってきたという小さなスコップを片手に、土砂で塞がれた秘密基地の入り口をひとりで掘っていたのだ。子供ながらに、それは気の遠くなる作業だとわかった。

僕はみっちゃんに「なにしてんの」と話しかける。みっちゃんは土のついた顔でこちらを向き、「せっかくだしさあ」と言った。みっちゃんの顔に流れる汗に、太陽の光が反射する。「ダメだったら、また新しく作ったらいいじゃんね」とみっちゃんは笑った。僕は近くから大きな枝を見つけて、みっちゃんの作業に加わった。なぜかその日のことを、梅雨に思い出した。


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