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赤い馬とサーカス団

このお店を見つけたのは、パリに小雨が降りしきる、しめやかな午後のことでした。

牢屋のように閉じられた、赤いお店の壁に描かれたその馬は、なんだか悲しそうでした。

まるで、群れからはぐれた仔馬のように、その馬は、涙を流して泣いているかのようでした。

次の瞬間、馬は激しく嘶(いなな)いて、お店の壁から飛び出すと、雨に濡れたパリの街路を駆け抜けました。

街路の古い石畳を、蹄(ひずめ)で強く蹴りながら、赤い鬣(たてがみ)をなびかせて、疾風(はやて)のように颯爽(さっそう)と。

そんなパリの街角を、脇目も振らずに駆け抜けてゆく赤い馬は、一体ぜんたい、どこへ行こうとしたのでしょうか?

牧場でしょうか、馬小屋でしょうか、それとも緑の草原でしょうか。いいえ、そこではありません。

競馬場でしょうか、広場や遊園地にあるメリーゴーランドでしょうか。いいえ、そこでもありません。

赤い馬が向かった先は、他でもなく、生まれ育ったサーカス団が生活する、赤いテントの中でした。

優しい団長や愉快な仲間たちと再会して、彼はようやく夢に見た、我が家に帰ることが出来ました。

そんな僕の妄想も、そぼ降る雨に流されて、ふと気がつけば何事も、なかったような午後でした。


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