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黒猫の贈り物

それは、ある三日月の静かな夜のことでした。

お店の前で、一匹の黒猫が、淋しそうに鳴いていました。

お腹が空いていたのでしょうか、その声は、今にも倒れそうな声でした。

あんまり可哀想なので、おじさんは、ドアを開けてその猫を、お店の中に入れてあげました。

そして、ミルクをたっぷりお皿に入れて、床に置いてあげました。

すると猫は、ペロペロと、美味しそうに飲みました。

やがて、お皿の底まで綺麗に舐め終えると、いきなり立って言いました。

「助けてくれて、ありがとう。お礼に、おじさんの願いを何でも叶えてあげるよ」

それを聞いたおじさんは、少しびっくりしましたが、その黒猫にこう言いました。

「ありがとう。だけど、その気持ちだけで充分ですよ」

すると黒猫は、首をかしげてちょっと考えてから、こう言いました。

「わかったよ。それじゃあ、またね」

そして、お店のドアから出るやいなや、ひょいっと、いなくなりました。

それから間もなくして、お店に、ある大きな荷物が届きました。

おじさんは、はてさて一体何だろう?と思いつつ、差出人の宛名を見ると、そこには、名前も住所もありません。

そのかわり、可愛い猫の肉球が、サインのように押されていました。

さては、あの黒猫の贈り物かと思いつつ、おじさんは、ドキドキしながら、早速封を開けました。

するとどうでしょう。中にはなんと!なんにもありませんでした。

それもそのはず、その箱の中には、黒猫の気持ちが入っていたのです。

それを見ながら、嬉しそうにおじさんは、満面の笑みを浮かべました。


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petit chaton/錆猫本舗+別館/星川孝
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