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知恵づくりのヒント

何か読もうかと思って、本棚を眺めていたら見つけたのがこの本。引っ越すからいらない本をあげると言われて、貰った一冊だった。

多湖輝さんは「頭の体操」シリーズで有名な先生である。昔、塾講のアルバイトをしていた時、教室に置いてあったのを覚えている。発想の転換を試される問題ばかりで、結構難しかった。牧野昇さんは三菱総研の設立に携わった方だ。二人とも存命ではないし、この本も24年前の刊行だが、今に繋がる記述も多くあった。

私は学生たちに「創造性とは、自分の体験現場の積み重ねから形成される」と説いてきた。単なる抽象論としての知識や情報でなく、ホントに地面を這いつくばりながら身につけるような情報を大事にする――ということだ。(中略)あくまでもあなた自身の目で見て、そのデータと自分が感じたことをきちんとメモしておく。なんでもメモするという習慣は、単に記録するというだけではなく、メモすることで頭に入る。つまり、記憶を助けてくれる重要なツールである。

以前に記した「あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか」に書いてあった内容と一致する。考える=書くことなのだ。思えば新入社員の頃だったか、上司に「あなたはよくメモをする」と言われたことがある。それはどういう評価なんだろう……と当時思った記憶があるが、今思えば、褒め言葉として受け取っていいんだなと思う(もしかしたら本当は違うかもしれないけど、自分の中の解釈として)。人間は忘れる生き物だし、それがプラスに働くこともあるが、何か思いついた時、何かを深く考えたい時、そんな時は紙とペンを使って表現することが大事なのである。

もし時間があったら、繁華街の十字路に30分間立ってみる。とおりすぎていく群衆の年齢層やファッションなど、その町の特性を自分の目で実感する。(中略)そのことにどういうメリットがあるかといえば、それは「数字と数字の行間に空いている余白が読める」ということだ。ただの数字では、それは無機質で情景が浮かび上がらない。でも自分の手で作ったデータなら、数字の裏に隠れている実態が生き生きと見えてくる。あの真夏の暑い日、ヒタイに汗しながら十字のペーブメントを渡って行った多くの人びとの表情が脳裏に浮かんでくるはずだ。そしてそのことが、あとで新しい商品企画を考えるときに必ず役に立つ。

これは「ストーリーとしての競争戦略」の中で、アスクルの例が取り上げられていたことに重なる。アスクルのビジネスモデルは、今まで誰も相手にしてこなかった中小企業のオフィスの人々にオフィス用品を提供することでスタートし、今日まで成長した。そこで働く事務員さんの姿(ストーリーとしての競争戦略では”久美子さん”という架空の人物を設定)を想像して、その人たちの不便を解消するためのビジネスを構築したということだ。これは、どんな境遇に置かれた人の、何を助けることなのか?が、明確に描くことが非常に重要ということを本書でも教えてくれる。

データに血が通うというのは、こういうことだなと思う。研究の仕事でも、実験の現場から離れると勘が鈍るというケースがある。整理されたデータだけ見ていると身に付かない力があって、それは実験の現場でしか養えないのだろう。上司がふらっと実験室にやってきて、実験の様子を見ながら雑談して帰る。そうした行動が発想に結び付くのならば、どんどんやってほしいなぁと思う。もっとも、こちらとしては緊張感が走るのだけれども。

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