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日本選手権2022①(女子10000m)

今宵も手に汗握るレースだった。オレゴン世界選手権派遣を掛けた日本選手権10000mが今晩行われ、男子は相澤選手(旭化成)が優勝、女子は廣中選手(日本郵政G)がそれぞれ優勝した。どちらも王者に相応しいレース展開だった。なお、肝心の世界選手権には女子の廣中選手と五島選手(資生堂)が内定した。男子のほうは内定者は出なかった。

世界選手権の派遣には①日本選手権で3位以内に入ること②参加標準記録を期限内に切っていること(男子は27'28"00以内、女子は31'25"00以内)である。このレース前の状態で、②を満たしていたのは男子は田澤選手(駒澤大)、女子は廣中選手、五島選手、小林選手(名城大)、不破選手(拓殖大)であった。このうち残念ながら不破選手は欠場となった。残る選手たちはこのレースで3番以内に入れば世陸内定というわけだ。

そういう視点で女子のレースから見ていくと、五島選手が参加標準を切っているにも関わらず最初から標準派遣記録付近で飛ばした。ハイペースに持ち込むことで自分のペースでレースを進められることや序盤でふるい落としを掛けられるといった良い点もあるものの、力のある選手が付いてくることによって標準派遣記録を破る選手が出て、かつ3着以内を逃すというリスクもあったはずだ。

しかし、五島選手はリスクを取った。結果的に自身は3着に入ったので成功したといえる。自分のペースで走れば3着以内に入れる自信があったからこその戦略といえる。実際、昨年のオリンピック入賞を果たした廣中選手に田中選手(豊田自動織機)、さらに男子の三浦選手(順天堂大)は皆、自分でペースを作ったうえで結果を残している。自分でレースを作れるくらいの力がないと世界では戦えない、だからこそ今日のようなレースをしたというのもあるだろう。3着だったので、本人的には悔しさもあったと思うが、大舞台でこうしたレースをしたことは今後の大きな糧になりそうだなと感じる。

そうしたレースを最後に制したのは廣中選手だった。4月に貧血で苦しんでいたのが嘘のようだが、そもそも廣中選手にとっては"らしくない"展開だった。通常なら、オリンピックの時のように自分からガンガン前に行くタイプの彼女が、今日はずっと3番手を維持していた。これは最低でも派遣条件を満たすということに徹していたことに他ならない。それくらい自分の調子が不透明だったということだろう。なにせ今シーズン初レースがこの日本選手権である。さすがの廣中選手でも慎重にならざるを得なかったのだ。

しかし、7000m付近の給水を利用してペースを上げると、それまで引っ張っていた五島選手を置き去りにして先頭へ(会場がどよめいた)。萩谷選手とのマッチレースとなり、この時点で世陸派遣という意味では勝負あった。その後、7600mで帽子を投げ捨て(ここでも、どよめいた)、途中で萩谷選手に先頭を譲ったが、ラスト1周で再び仕掛け(やっぱり、どよめいた)、そのままフィニッシュ。終わってみれば31'30"25のタイムだった。萩谷選手も粘って2位に入ったが、標準派遣記録を切るには至らなかった。それでもまだタイムを切れるチャンスは残っている。

最も悔しい思いをしたのは小林選手だろう。標準派遣記録を破っていたものの、3着以内の条件を満たせなかった。トップ選手が集まった今日のレースは、記録会とは異なる独特の緊張感があったはずだ。その中で力を発揮することが如何に難しいか……、見ているこちらにも十分伝わった。力があるのは間違いないから、この経験をどうか次に活かしてほしいと思う(すぐに切り替えるのはこれまた難しいかもしれないが)。

女子だけもこれだけの話になってしまったので、男子のほうはまた明日ということにする。

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