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貧民の帝都

渋沢栄一が実業界を引退した後も依然として続けていたことが東京養育院の事業である。その奮闘ぶりが描かれたのが同書、というわけだが、栄一以外にも色々な人が出てきて養育院の運営の苦労が窺い知れる。

大河ドラマ「青天を衝け」の新しい視点というのは、明治維新を徳川側から見ていることだという。維新=良いこと、素晴らしいことというのは、歴史の勝者が作ったイメージであり、物事が一面性でないことを教えてくれるいいドラマである。この、貧民の帝都は、明治維新後の世の中の様子から現代に至るまでの話で、維新後に江戸から東京となった日本の中心地で、いかに困難を極めていた人たちが多いかがわかる。

当時の東京各地にスラム街があったことは、今を生きる我々にはなかなか想像が付かない。それをありありと示すのは、ページ各所に書かれた地図である。今の地図に重ねる形で話に出てくる建物やエリアが描かれている。この辺の描写は、色々と賛否両論があるようだ。かつてここにあった事実を知った人がどう受け取るかは、受け取り手に委ねられるため、作者が意図した通りにいくことばかりでない……ということなのだろう。

(前略)だれも援助の手をさしのべない。なぜなら、事故の責任でその状態を選んでしまったからだったといい、当の野宿者もそう思っている。しかし、かれの能力が社会環境にうまく適応できなかったというだけで、これほど残酷な処遇と結びついていいものだろうか。(p.218-219)

戦争、震災、パンデミック。未来が予定調和でないことは、今までの歴史が語っている。今の社会システムから溢れてしまった、適合できなくなってしまった人たちを救う手立ては、今の日本には乏しいのかもしれない。そういう人が(見た目上は)少なくなったから、余計にそう思ってしまう。正直にいえば、この本を読むのにとても苦労した(話の重さ、文体、色々考えてしまう…など)が、最後に語られた上記の文章が頭に残って離れない。

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