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第98回箱根駅伝 復路

圧勝だった。往路が終わった時点で総合優勝の確率は相当高かったが、復路でもここまで圧倒するとは思わなかった。今年の箱根駅伝は青山学院大学の新記録づくめで幕を閉じた。そして、11時間を切ってもシードを取れないという史上初の出来事もあった。今年も無事に開催されて、本当に良かった。昨日と同様に各区間で印象に残ったシーンを振り返る。

【6区】流れを作った大学が最後の結果に繋がった

下馬評では先頭からスタートする高橋選手(青山学院4)が有利な展開であった。57分半が設定タイムで、こんなタイムで走られた後ろから来る大学はとてもじゃないが追いつけないと思われた。しかし、高橋選手のタイムが伸びず59’03"(区間8位)だった。しかし、前回同様にラスト3kmの絞り出しが圧巻で下りで詰められていた分をほぼ帳消しにしてしまった。おそらく後ろの大学は「あれ?」と思ったのではないか。これが後々に効いてきた。結局、高橋選手は最低限の仕事を果たしたのだった。

区間賞は牧瀬選手(順天堂4)が取った。前回も順天堂の6区は良い走りをしており、何かノウハウがあるのではないかと思うくらいだ。また、区間2位は武田選手(法政1)。振り返ると、順天堂も法政もこの6区でうまく流れを作ったから、最後の結果に繋がったのだろう。当日変更で入った佃選手(駒澤4)も良かったが、ラスト3kmでそれまで詰めた分を吐き出してしまったのは悔やまれるかもしれない。

この区間での驚きは小泉選手(駿河台3)だろう。なんと区間3位。それまでずっと二桁順位が続いていた中で、この区間は上位の成績である。これには徳本監督も後の談話で「小泉様」と手放しで褒めるしかなかった。そして、この走りが駿河台の襷を10区まで繋げたといっても過言ではない。

【7区】帰ってきた駅伝男

7区は気温の差が激しい区間。時刻としては1日の中で気温が上がる途中の9~10時くらいなのだが、その差でやられてしまう。また、4区の裏返しということはアップダウンも激しい。結構、難しい区間だと思う。

岸本選手(青山学院3)の独壇場だった。本来ならば2区を走ってもいい選手だが、故障などで十分な調整が出来なかったため、7区に回った。しかし、よく考えてみてほしい。"十分な調整が出来なかった"選手が箱根を走れてしまうのか。続く8区の佐藤選手(青山学院3)にもいえるが、この2人の駅伝で力を発揮できるポテンシャルは、他の選手をはるかに上回るということなのだ。たぶん、教えてもできることではなく、本人たちが元々持っている勝負勘のようなものなのだろう。青山学院ではかつて田村選手や森田選手がそういうタイプの選手だったが、脈々と受け継がれているのだなと思う。

富田選手(明治3)や越選手(東海1)の好走もあったが、二人の走りがチームの結果に結びつかなかったのは残念でならない。明治は、前回に引き続き反撃のタイミングが遅すぎた…という印象である。

【8区】走れる選手を起用できたか

8区は遊行寺の坂があるが、チーム10番手の選手が起用されることが多い。だが、逆にここにレベルの高い選手を持ってこれれば勝負を決めることもできる区間。もはや、箱根駅伝に繋ぎの区間など存在しないのかもしれない。

明暗を分けた二人がいる。鈴木選手(駒澤2)と津田選手(順天堂4)である。持ちタイムから考えたら鈴木選手に分がある。分があるどころか、本来8区を走るような選手ではない。27分台ランナーなのだ。二人同時に襷が渡った時、多くの人は鈴木選手が津田選手を突き放し、どんどん前に行くことを想像しただろう。だが、結果は正反対のものとなった。

二人とも前回は5区を走っている。その時は鈴木選手が区間4位、津田選手が区間13位だった。登りの適性を買われて8区を走ることになったであろう両者だが、今回は津田選手が区間賞、鈴木選手が区間18位となった。前半のリズムを作り出したのは鈴木選手に他ならないが、万全の状態でなかったことは遊行寺以降の走りを見れば明らかだった。

万全の状態でない鈴木選手を起用せざるを得なかった駒澤大学。逆に東洋大学はスーパールーキーの石田選手を今回どこの区間でも起用しなかった。怪我かと思われたら、そうではなく単に走れる状態まで上がってこなかったからだという酒井監督の談話があった。チーム内の競争に勝ち上がってこなければ走れない、そして走るからにはレベルの高い走りを、という厳しさと優しさが入り混じった酒井監督であった。もちろん鈴木選手が走れると踏んだから大八木監督は起用したのだろうけど、青山学院のようにはいかなかった。たぶん、紙一重のところなのだろう。

【9区】ついに破られた区間記録

9区の区間記録は昨年に現役を引退した篠藤選手(中央学院OB)が持っていた1:08'01"であった。2区の裏返しで、2区の難しさに比べれば9区のほうが容易なはずだが、区間記録は2分以上の差がある。(あくまで花の2区に比べると)起用される選手のレベルが下がるのと、競った展開になりにくく、単独走で押していかなければならない難しさがある。篠藤選手は平坦になる後半がすごく速かったので、過去の大会でも、9区前半で区間記録を上回っていても、後半に落ち込んで結局は破られないパターンであった。

しかし、中村選手(青山学院3)は違った。権太坂、横浜駅前、生麦と各定点で区間記録をずっと上回っていた。結局、1:07'15"で走り切り、区間記録を46秒も更新した。1区で区間記録を更新した吉居選手とともに金栗賞(MVP)を獲得したのであった。先頭を走っているとはいえ、一人で行ってこのタイムである。区間2位の平林選手(國學院1)が1:08'07"で区間記録同等のタイムだし、3位の湯浅選手も1:08'31"で区間歴代8位で、例年ならば区間賞でもおかしくないタイムで走ったにも関わらず、それが霞んでしまうくらいの凄いタイムを叩き出したのであった。

鶴見中継所の時点で、トップ青山学院と2位順天堂の差は7分56秒。距離にして約2.6km。さすがに勝負あったと思わせる区間となった。先頭をかっ飛ばした青山学院の影響で繰り上げスタートの心配が生まれたが、駿河台大学ここでも襷を繋ぎ切り、初出場ながら見事に襷を大手町まで持ってくることができる権利を得た。

【10区】連続区間記録更新と最後まで諦めなかったシード権

中倉選手(青山学院3)は前回もこの10区を走った。その時は、ラストで東洋に競り負け、青山学院は4位となった。しかし、今年は悠々と先頭を走れる位置で襷を貰ったため、安全にいっても何ら差し支えなかった。だが、それをせずに最初から1km3分を切るペースを刻んでいく。頭にあったのは、総合記録、復路記録、そして10区の区間記録であろう。だから、守りに入ることなど、最初から考えていなかったのだと思う。

10区は創価の嶋津選手(当時2年)が作った1:08'40"が区間記録だったが、中倉選手はそれを50秒も上回る1:07'50"でゴールした。最後までフォームも崩れず、非常に綺麗なフォームで駆け抜けた23kmであった。青山学院は総合で10:43'42"、復路で5:21'36"と、二つも記録を塗り替えた。まさに史上最強の10名による優勝となった。2位以下には10分以上の大差を付けた。

シード権争いは、今年も10区で波乱が起きた。9区終了時点で8位を走っていた東海大学が11位に転落し、法政大学が最後に抜いて10位となった。途中、坪田監督から川上選手に、やってきた練習があるのだから負けるわけがないと檄が飛んでいたが、本当にその通りになった。川上選手は区間11位と区間中位の結果ではあったが、最後まで諦めなかったことがシード権を手繰り寄せたのだと思う。

そして忘れてはならない駿河台大学。4年生でキャプテンの阪本選手が区間7位の好走でチームを20位から19位に一つ押し上げてゴールした。予選会が終わった時点で燃え尽きた感じもあったそうだが、来年に繋がりそうないい走りを各選手が見せていた。徳本監督の楽しそうな姿は随所から見ている人たちに伝わったはずなので、来年度以降も楽しいチームを作ってきそうな期待が持てる。


こうして第98回箱根駅伝は幕を閉じた。大会関係者及び各大学の監督、選手の皆さん。今年も楽しいレースを見せて頂き、ありがとうございます、という気持ちしかない。99回がどんな大会になるのか、あと364日を楽しみに過ごしたい。

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