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AIで我々の老後は変わるか?

我々が将来の計画を立てる時、基本的には現在の延長線上に未来があるということを想定します。10年や20年では大きく変わらないことも多く、例えば歳をとって何を幸せと感じるかなどは、過去の研究を参考にすることで自分に何が起こるかを予測することができるでしょう。一方で科学技術のように、20年もすると飛躍的な進歩が起こり得る分野もあり、進歩を織り込んで計画を立てないと大きくズレが生じる可能性があります。

科学者のロイ・アマラの唱えたアラマの法則を聞いたことがある人もいるでしょう。アマラの法則は「人は科学技術の進歩を短期的には過大に評価し、長期的には過小に評価する」というもので、技術革新は指数関数的に起こるものであり、更に稀に起こるブレイクスルーを予測することが難しいことから、人は長期的に起きる技術の進歩を小さく見積もってしまいがちだというものです。

我々76世代が引退(60代後半)を迎える20年後、世の中はどう変わっているのでしょう。そして、それは我々の引退プランにどのような影響を与えるのでしょうか?

まず、技術はどの程度進歩するかを考えてみましょう。ここでは特に今大きな革新期を迎えているAI技術について考えてみます。参考として令和2年の科学技術白書から、科学技術予測調査のAIに関する項目を見ていきましょう。ちなみにこの調査は1971年から定期的に行われている調査で、第11回目の2019年のものが最新となります。

AIに関する項目とその実現予測年は以下のようになります。

  • 「あらゆる言語をリアルタイムで翻訳・通訳できるシステム」-- 2029年に実用化。

  • 「当⼈の代わりに買い物をしたり、他の⼈と出会ったりすることを実現する、等⾝⼤のパーソナルロボットやテレプレゼンスロボットの開発と普及」-- 2031年に実用化

  • 「レベル5の自動運転」-- 2034年に実用化。

この調査は2019年、ChatGPTに代表される大規模言語モデル技術の大きな進展の前にされているので、現在の感覚で見ると少し保守的な予想に見える部分もあります。例えば、翻訳システムはもうすでにほぼ出来てるようなもので、2029年よりずっと前に社会実装可能でしょう。レベル5の自動運転もあと10年もかからないだろうと個人的には思っています。逆に、ロボットのようなハードウェア技術がこのタイムラインでできるかはよく分かりません。

何れにせよ、今から10年ほどでAIは普通の人間と同程度の知性を持つようになり、普通の人間ができるようなことを代わって行うことができるようになると予測されています。あたかも、我々ひとりひとりが専用の執事を雇っているかのように、車の運転もレストランの予約もAIアシスタントにやってもえるようになる未来がすぐそこまで来ているのです。(10年で本当にAIが人間並みの知性を持つか疑問に思う人も多いかもしれませんが、20年も見れば十分可能な未来ではないでしょうか。ちなみに、レイ・カーツワイルは、有名な「ポスト・ヒューマン誕生」で、チューリングテストに成功するAIの出現を2020年代終わりと予測しています。)


さて、ここからが一番重要なポイント、上記のようなAI技術の進歩が10-20年のタイムフレームで起きるとしたら、我々は引退プランを修正する必要があるか、あるとすればどのように変えるべきか、です。

私の考えは「特に変える必要はない」です。AIアシスタントを運用するには当然コストがかかるので、有償のサービスとして販売されるでしょう。つまりお金は依然として重要であり、老後に向けて投資・貯蓄はしていく必要があります。その一方で、AIアシスタントを商業サービスとして成立させるためには一定規模のユーザー数が必要で、開発元はある程度リーズナブルな価格でサービスを提供する必要があります。そう考えるとコスト的には、動画サブスクリプション(年数万円程度)から車の維持費(年数十万円)程度の範囲に収まるのではないでしょうか。別の考え方をすれば、自分の家計が上位50%以内にあれば、社会の多くの人がAIアシスタントで生活をし始めた時には自分も使えるはず、と考えてもよいかもしれません。

現時点では、AI技術の進歩は我々の老後生活を楽にするメリットを与えてくれるもので、脅威ではないと考えます。少なくとも、高齢になって運転をあきらめて生活の自由度が減る、といったことは我々がその歳になる頃には存在しない問題となっていそうです。

(実は技術の進歩で一番心配なのは、医療技術の進歩により寿命が伸びることです。150歳まで生きることになったら老後のプランは大きく影響を受けます。そのことについては別途検討をしようと思います。)

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