此れは海神の紋 【前編】
七月十一日。
今日も相変わらずの梅雨空。
長雨は一向に止む気配はない。
気怠い昼下がり。
布団の上に寝転がりながら、お気に入りのアクセサリーショップのサイトを何気なく眺めていた。
敬愛するアイヌ民族の木彫りのペンダントに、サハラ砂漠の遊牧民・青の民トゥアレグ族のクロス。古代ケルト民族に伝わるケルティック・ノットが施された純銀製の指輪に、チベット族の至宝・ジービーズのあしらわれた豪奢な腕輪…
サイトに無数に散らばる摩訶不思議なカタチをしたアイテムを眺めていると、次第に気分が高揚してくる。
それはまるで、古今東西、さまざまな国のご自慢の装飾品が一同に集められた、異国の大きなバザールにでも迷い込んでしまったかのような感覚だった。
いろんな国のいろんな露店を見てまわる。
煌びやかな輝きに、目移り必至。
遠い遠い国の人々の想いや、いにしえの伝承を確かめるように、イメージの中で装飾品を手に取って眺める。ひとつ、ひとつ、愛でるように。
ふと、ある店が目に止まった。
それはどこか懐かしい匂いのする店だった。
遠くの方で、微かにさざなみが寄せては返すマボロシのような音が聞こえてくる。
店先には、顔面いっぱいに風変わりな紋様が施された木彫りの仮面が置いてあり、
看板には白い文字で〝Maori〟とだけ書かれていた。
店の飾り棚には、釣り針や渦巻をモチーフにしたペンダントが所狭しと並べられている。その中のひとつ、真っ白い牛の骨で作られた、とあるペンダントのカタチにわたしは目が釘付けになった。
(あれ?このカタチは…もしかして三つ巴の紋?)
日本の神社などでよく見かける、あの紋様だ…
ペンダントに付いているタグには、〝KORU らせん〟とあった。
(三つ巴は日本だけのものじゃないんだ…)
そんなことを思いつつも、日本と遠い異国になにか共通のものを見出せたような気がして、つい嬉しくなり、いつの間にかペンダントを手に取って自分の首に掛けていた。
「…これ、欲しいなぁ…」
そばにあった鏡を覗き込みながら、小さくつぶやく。
「あら…さすが、お目が高いわね」
その時、突然女の人に話しかけられたような気がして、ハッと我に帰った。
ずいぶん長い間、頭の中で空想を繰り広げていたらしい。
スマホの画面には、例のペンダントの画像が大きく表示されていた。
(マオリ族のコル、か…でも、このカタチはなんだかちょっと珍しいかも…)
そうして、しばらく画面を見つめていると、妙な眠気が襲ってきた。
つづく…
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