いちごの在野研究所を目指して@伊東・伊豆高原 報告⑥ 夏イチゴ 施設園芸の試験データを読み解いてみる。


5月上旬-6月下旬の早期収量の試験データからの示唆

下図が、試験栽培用のビニールハウスでの収穫量推移(等級別、46株定植)
である。等級分類は、ネット通販サイトで夏いちご生産者がパッキングしている総重量、粒数から算定したもの。

信州大の夏イチゴ栽培ガイドでは、定植(4月中旬想定)から45日間は株の生育を優先、花房を摘除することを推奨しているため、6月下旬以前の早期収量については数値記載が無い。

【実施した栽培管理】 
大室高原(伊豆高原)の小型施設園芸ハウスでは、夏イチゴ試験栽培2023 報告⑤ 「定植後初期栽培期間に実施した栽培管理」 クリック
で報告の通り、2023年度の栽培管理実施方法は、
・ 花房の無摘除/放任栽培:4-5月の株の生育が旺盛のため
・ 無摘果の放任栽培:2023年度、夏イチゴ生産性検証のため無摘花とした

【収穫結果】 伊東・伊豆高原での早期収量イチゴの上物比率の高さ
6月下旬までは、夏いちごの業務顧客(ケーキ店舗等)の需要主力とされるL等級、M等級以上が、果重累積の大半。いわゆる上物比率は重量比で85%程度。 伊東・伊豆高原では、早期収量を狙った栽培管理が適していることが示唆されている。 
留意点:5月中旬までは冬春いちごの出荷が続いているが、同時期の冬春いちごの品質(糖度、外観・光沢等)が下がってきており、伊東・伊豆高原のいちご生産者と地域内業務顧客向けのサプライチェーンでは、夏イチゴに業務顧客の需要を置き換えることは可能であろう。

【収穫実績】

6月中旬までは、収穫果実の大半が上物、7-8月以降にS等級/SS等級の収穫比率が高まった。

下図は、7月以降の収穫果実の粒数推移を示す。6月中旬までは大半が上物果実であったが、7月中旬にかけて(S等級/6-8g)の比率が上昇。7月下旬以降は、(SS等級/3-5g)の比率が半分以上となった。

1株あたりの収穫果実重量の比較

上図で、大室高原ハウスの1株あたりの収穫果重については、データ集計当時に9月の収穫量を入れていないが、9月の収穫果実粒は6g未満のSS等級の果実が大半であった。

夏イチゴの夏場(8-9月)の課題は、栽培技術的な問題と、栽培出口戦略(業務顧客とのフードバリューチェーンコラボ含む)の2つが挙げられる。


示唆① 栽培技術的課題

6月後半以降、高温ハウス内環境/最高温度40-45度)と、いちごの最適温度を大きく上回っていたが、収穫にその課題が顕在化するのは8月以降で、それ以前は、L/M等級以上の果実の安定的収穫が維持出来ていた。

高温度環境により、株および果実の成長への課題が顕在化したのは7月後半~8月以降であるが、具体的な問題は以下の通りである。
・ 高温ハウス内環境で株が徒長傾向が強く、病害虫(雨天が続いた際の初期の灰色カビの発生等)、花房が古葉の下に隠れることによる果実の成長の遅れ、交配不良による乱形果の増加の問題につながった。
・ 今年度は7月の梅雨時期に猛暑に見舞わられた。7月中の花芽分化、開花、交配、着果の生殖成長プロセスは猛暑にさらされたことで顕著な影響が出たことが推定される。
・ 試験栽培開始の当初よりS等級、SS等級の収穫果実比率が8月以降高まることは想定していたが、今年度の7月上旬からの猛暑は、想定より大きな影響があったと推測される。
・ 8月下旬-9月期間中は、SS等級の果実が主体となり、かつ、収量の減少が顕在化した。さらに猛暑下で交配不良、着果不良の果実が多く観察された。

【猛暑時期の対策・手段】

今年度の夏イチゴ試験栽培で、使で用した小型の施設園芸ハウス。今回の夏イチゴ試験栽培のために、高設ベット2列(2.4m x 2 ) をDIY施工 。 株間20センチで23株 x 2列の46株定植。

小型のビニールハウス故に、日照があると高温になりやすい傾向。3月末の定植時以降、4側面が防虫ネットだけで開放されていたが、4-6月の日中の最高温度は30-35/36度で推移。7月以降は晴天日は日中最高温度が40-45度超が常態化していた。

我々が視察させて頂いた長野県の夏いちご生産者では、8月時点で、開閉装置付き遮光シート、ミスト装置、点滴チューブの床敷設等のハウス内温度の抑制措置を取っていたが、本試験栽培では、赤外線反射シートの屋根部分の敷設、ハウス内の遮光ネットの敷設で猛暑対策を実施した。但し、8-9月の晴天時の最高温度は35-40度で推移していた。

示唆② ”Farm to Table” の地域内の農・食のバリューチェーン構築の課題

SS等級の夏イチゴの特性を最大限に活かした、食のバリューチェーン構築に挑戦。

信州大学の栽培ガイド(指標)文献を参照すると、可販果は概ね6g以上のS等級を指していると読み解ける。 伊東・伊豆高原での夏イチゴの栽培の7月下旬以降の等級別の収穫傾向には、SS等級(3-5g)の小粒果実の収穫比率の増加が顕著であり、このSS等級を如何に活かすかが課題となる。

下図ご参照の通り、果物の仲卸大手「紅光」のAmazonでのネット通販を見ると、2Sサイズ(SSサイズ:3-5g)が、流通商品として一応規格化されており、SSサイズの極小粒についても一定の業務需要家が存在しているためと解釈できる。

果物の仲卸大手「紅光」の等級図  Amazonの商品カタログより

夏イチゴ試験栽培での収穫粒と仲卸「紅光」の等級図をマッピング

イチゴ試験栽培2023では、上記のSSサイズ相当の極小粒の収穫が、猛暑時期に出てくることを当初より予想されていたため、SSサイズの夏イチゴ特性を活かしたスイーツレシピの試作、ならびに、リゾート地域内で、農園・パティシエ・スイーツ店舗・宿泊施設・食卓を繋ぐ、農・食のバリューチェーン作りを実証事項に入れていた。詳細は以下の記事をご参照。

参照記事
 [Farm to Table : リゾート地で農園・パティシエ・スイーツ店舗・宿泊施設・食卓を繋ぐ「芳醇な食のバリューチェーン作り」クリック 



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