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ニホンミツバチの秘密・・5万匹の蜂と暮らす

特別寄稿 山本文夫氏 
いとう・住もうPT
移住促進官民共同プロジェクトチーム 座長

1.ニホンミツバチを飼う、それは家族が増えること

15年前、伊東の小室山に中古の別荘を購入しました。リビングルームから箱根や富士山、そして相模湾を越えて三浦半島、房総半島が一望できる絶好のロケーションです。
4月のある日、週末に東京から来て2階の雨戸をあけようとすると、戸袋に雨戸が入りません。よく見ると戸袋の中からたくさんの蜂が出入りしています。地元の方が「それは日本固有のニホンミツバチですよ」と。そこで養蜂に詳しい植木屋さんを紹介していただいたところ、さっそく養蜂箱を持ってきてくれました。その箱を家の東南の角、あの蜂が入った戸袋の真下に置きました。それから時を経ずして一群が入ってきてくれました。
親切な植木屋さんはさらに二箱作ってきてくれて、養蜂の方法を細かく教えてくれました。ニホンミツバチは大人しくて、人を襲いません。元気に蜜や花粉を集めてくる様子を朝夕に見るのが日課になりました。秋になって最初にとれたハチミツのおいしかったこと、ミツバチ達が愛おしかったこと、今でも忘れません。
5万匹のミツバチが庭にいて、かれらと苦楽を共にする、それは新しい家族を迎え入れたような喜びです。

重箱式養蜂箱 最上段から巣作りされる


2.ニホンミツバチの秘密―犠牲の精神


キンリヨウヘンのネットに群がる蜂たち

5年前に川奈・小室山から伊豆高原に移りました。今度は伊豆七島の内、五島が見える、これまた絶景です。「伊豆高原にニホンミツバチはいないよ」と言われましたが、とにかく蜂箱も一緒に引っ越しました。なんと1年目からやってきました。夏の暑さには日よけ、冬の寒さには風よけをし、さらに病虫害対策を施します。スズメバチとの闘いは気を抜けません。
働きバチのいのちは約40日、生まれてすぐには幼虫の世話や、巣作り、貯蜜などの内勤の仕事をして、寿命が短くなると外に出て蜜や花粉を集める仕事に変わります。外勤は外敵に出会って死ぬ確率が高い、それは余命が短い年寄りの仕事というわけです。これが人間社会と違う秘密の第1です。
また、黄色スズメバチが襲ってくるとニホンミツバチは集団で取り囲み、体温で温度を上げてスズメバチを殺してしまいます。もちろんミツバチの何匹かはかみ殺されます。この犠牲の精神が秘密の第2です。
春に女王が生まれると蜂の群れの一部が新居に移動します。これを自分の箱に誘導できるか否かがその年の成果を決定します。そのためにニホンミツバチが好むキンリョウヘンという蘭を春に咲かせて、蜂群の飛来を待ちます。「伊豆高原ミツバチ倶楽部」を結成、2023年の夏は15人で40群を養蜂しています。順調にいくと1年で5キロから10キロの蜂蜜を採取できます。市販の蜂蜜はセイヨウミツバチの蜂蜜で熱処理されたものですが、ニホンミツバチの生ハチミツは抗菌力、免疫力を高める効果があり、とても貴重です。


トラップで捕獲した分蜂群

3.ニホンミツバチの秘密3ー スーパー民主主義


分蜂してきたミツバチたち

春に女王が生まれると新居に移動する、と前回書きました。この時に母親女王は生まれたばかりの娘女王に古巣を譲って出ていきます。これが人間社会と違う秘密の第3です。
その時に新しい群れはいったん近くの大きな木の枝に集結して、新居を探すために探索バチを多方面に放します。探索バチは次々と帰ってきて候補地を報告します。これを聞いて女王が決定すると思っていたら大違いでした。1万匹の蜂たちが、協議に協議を重ねて、全員の90%の蜂が合意するとその場所に一気に移動します。これ以上の民主主義があるでしょうか。これをSwarm Intelligence(群れの行動原理知能)と言うそうです。これが人間社会と違う、ニホンミツバチの秘密の第4です。
ニホンミツバチはめったに人を攻撃しません。暑い夏には巣箱の入り口に横に並んで内部に送風する、巣箱の中をいつもきれいに掃除する、集めた蜜に送風して乾燥させ、糖度が80%以上になったら蓋をするなど、懸命に生きていく。その努力、けなげな可愛さ、その魅力は他にたとえようがありません。
ナポレオンは彼が座る玉座やガウン、ベッドカバーなどにたくさんのミツバチのマークをデザインしていました。ミツバチ社会の「規律と繁栄」を標榜していたのでしょう。

胴式単箱の内部

4.ニホンミツバチの秘密―世界的に減少するミツバチ


4,5月に新規に越してきた群れも順調だと7月には巣箱がいっぱいになります。巣箱の下から写真を撮り、天井から降りてくる巣の成長に応じて重箱を下に補充し、6段まで蜂群が延びたら最上段を切り離して蜜を採ります。重箱1段で4kg程度、さらに9月か10月にもう一度採ることができます。2023年の夏は好天つづきでしたのでとても好調でした。
もしミツバチが地上からいなくなったらどうなるでしょうか。植物は交配できなくなりその多くは死滅し、人も動物も食糧難で生きていけなくなるでしょう。いま世界的にミツバチが減少しています。その原因はいくつも挙げられています。森林開発や耕作放棄による蜜源植物の減少、ネオニコチノイドという殺虫剤、グリホサートという除草剤などのミツバチに有害な薬物の普及(世界で使用規制が始まっていますが、日本では野放し、畑やゴルフ場、家庭でもよく使われている),ダニやウイルス、巣を食べてしまうスムシという害虫の繁殖も脅威です。
これからの最大の課題は温暖化でしす。気温上昇は植生に変化を与えるだけでなく、高温によって蜂の巣が落ちてしまうという事故を招きます。またスズメバチなどの害虫の繁殖をもたらします。伊東市は海岸から1400メートルの天城山まで大きな高度差があります。この気温差を利用してベストな環境で養蜂ができるような実験を始めたいと考えています。

「Uさん初めての養蜂1年目で大収穫」


「スクレーパーで巣を切り落とす」


「22年、みつばちたちの秘密ワークショップ開催大好評」


今年のワークショップの案内


「みつばちの秘密」ワークショップを10月21日と28日午前10時に伊東市東大室で開催します。ご参加される方電話をください、協賛金300円です。(080-5005-3703山本)


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