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eMAXIS Slimのオルカンがより魅力的に。


米国株式、全世界株式論争に変化の兆し。

 9/8からeMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー、通称:オルカン)の運用コストである信託報酬が、年0.11330%以内から、年0.05775%以内とおよそ半分に引き下げられる。(いずれも税込み)

 長期・分散・積立の王道である、ノーロードかつ運用コストの安いインデックスファンドの代表格であり、しばしば米国株式(S&P500)か全世界株式(オルカン)か論争が勃発する。

 指標となるのは、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスで、これに準じたリターンが得られるよう、三菱UFJ国際投信が運用している。

 今回の信託報酬引き下げは、後発の類似ファンドがこの水準で打ち出してきたから、追従したに他ならず、業界最低水準の運用コストを目指すと謳うだけのことはある。

 これまで、米国株式か全世界株式か論争の立ち位置としては、米国一強時代と相まって、投資対象が米国オンリーの方が、投資範囲が米国企業と限定的な分、運用コストが安く(0.09372%)、それでいて運用成績も良かったため、論争が勃発していたが、今回の信託報酬引き下げにより、置かれている状況が変わってくる。

 運用成績に関しては、全世界株式は今をときめく米国株式が6割程度で、他国を4割組み込んでいる影響から、米国一強時代が続く限りは劣勢となる。

 しかし、歴史を振り返ると、米国一強ではない時代もあり、未来は予測できない(できると豪語するのは詐欺師か未来人だけ)。

 そのため、分散の観点では今の運用成績が米国株式より多少見劣りしても、世界経済は長期目線で右肩上がりで成長し続ける前提で、世界経済全体に張るのがベストな選択と言え、私も投資に関する相談を受けた際は、迷うくらいなら全世界株式が無難と返している。

 そして、世界経済全体に張る分、米国に限定するよりもコストが割高になるのは致し方ない状況が長らく続いたが、競合ファンドのおかげでそれが逆転するため、全世界株式に妙味が出ているのが現状である。

 無論、将来的に米国株式が更なる引き下げを行う可能性は否定できないが、10年前の外国株式を扱うファンドのように、信託報酬0.6%超は当たり前で吹っ掛けられる時代に比べれば、コンマ1%以下の攻防戦は個人投資家にとって喜ばしいことであり、両者の差は誤差の範疇だろう。

そもそも信託報酬とは?

 投資信託とは、文字通り自分は投資せず、他者に信じて託すものだから、運用を外注することによるコストが発生する。

 その運用コストは大きく分けて、信託報酬と、信託財産留保額に分けられ、後者は売却(取り崩し)時の約定代金から徴収されるため、隠れコストとも言われている。これとは別に購入時に手数料を取るファンドも存在するが、最近はノーロード(無手数料)が主流である。

 信託報酬は、預かっている資産額の平均に、目論見書に明示しているパーセンテージ(年率)を上限に乗じた金額を、手数料として収受する仕組みだ。

 しかし、口座内の現金から直接差し引かれるわけではなく、基準価格から差し引いているため、コストが割高か否かが分かりづらい側面がある。

 投資信託は基準(運用開始)日時点で、1万口1万円で売買され、日々の価格変動に応じて、基準価格が10,500円とか、9,500円に変動する。

 現実にはあり得ない話だが、仮に運用開始から1年間、基準価格が1万円から全く株価が変動しなかった場合、1年後は1万円のままかと思いきや、信託報酬が差し引かれるため、それが0.1%なら10円が差し引かれた9,990円となる。(実際は年イチで10円一気に引くのではなく、月割りで0.8円ずつジリジリ減る形となる。)

 つまり、銀行窓口で販売している投資信託なんかは、平気で信託報酬が2%を超えていたりするため、上記と同じ条件の場合、1年後の基準価格は9,800円となっている。

 運用資産が1万円なら運用コストは190円差と可愛いものだが、それでも自販機でペットボトル飲料1本の差が出る。100万円なら1.9万円、1,000万円なら19万円の差となり無視できない。

 私はeMAXIS Slimのような低コストファンドが登場する前に投資を始めたため、運用資産が500万円を超えた辺りから、信託報酬だけで携帯代が賄えるのではないかと思った経験があり、それくらい運用コストの見極めは重要と言える。

 流行りのロドアドバイザーは、信託報酬1%と強気なサービスが多いが、600万円預け入れると、年間6万円の信託報酬となる計算で、月額換算で5,000円の運用手数料と庶民には無視できない数字となる。

 これが、冒頭のオルカン(引き下げ後)なら年間3,465円、月額換算で289円で済み、ロボアドとの差額で、ちょっと良い外食に毎月1回は行ける計算である。仮に1,000万円の資産運用を外注しても、月額ワンコイン程度と、下手なサブスクより安いのだから実に良心的である。

 投資初心者ほど、「手数料の高さ=手数料を上回る成果を出す自信の表れ」と捉えがちだが、インデックスファンドに勝るアクティブファンドは、全体の1割にも満たないのが現実で、収益は不確実なのに対して、費用は確実に出ていく。だからコストは安いに越したことはない。

 とはいえ、あまりにも安すぎると、運用会社が慈善事業同然となり、突然ファンドが解散(運用終了で強制売却)する恐れもゼロではない。

 そのため、後発の超低コストファンドよりは、多少割高でも純資産総額合計の大きいファンドの中から選び、手数料の引き下げを待つのが無難で、今回のオルカンの引き下げは、まさにこのケースに当てはまる。


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