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意思決定のクオリティを高めたい時。


餅は餅屋。

 私は車社会の地方で、生活コスト削減目的で自家用車を所有しない生活が可能なのか実験している。無論、公共交通機関は思い立った時に使おうにも、待ちぼうけとなるような運行頻度のため、予め計画を立てなければ使い物にならない。

 そのため、基本的には自転車が生活の足となるが、20代という、人生の中では比較的体力のある時期なのが幸いして、今のところ自家用車なし生活による弊害は感じていない。

 そんなある日のこと、自転車を転がしている際に違和感を覚えた。かつて電車を運転していた経験上、普段と異なるフィーリングの時は、自身の体調不良か、メカニカルトラブルの可能性が高い。

 前者であれば、何日か安静にしていれば済む話だが、後者であれば故障につながる恐れがあるため、違和感が異常として顕在化する前に、その場で点検したところ、部品に亀裂があった。

 手前味噌だが、工業高校時代に手製のバッテリーEVレースの製作と、ドライバーとしての出場経験がある。市販の自転車をバラしてバッテリーEVに改造していたことから、相応のチャリ知識は身に付いていて、部品の名称や構造、仕組みは一通り理解している気でいる。

 そのため、自転車を趣味にするほどの興味・関心はないが、自力で消耗品を交換したり、部品を換装する修理はできる。

 しかし、今回部品に亀裂が入ったのは、四半世紀前に発売された、パンピーの感覚ではクラシックバイシクルと表現したくなる旧車で、例に漏れず後継モデルも含め、全て廃盤となっている。

 メーカーの代理店経由で部品が調達できるかも定かではない上、恐らく受給バランスの関係から、その部品が非常に高価で、同じ症状の修理例を調べたところ、ちょっと良いシティサイクルが買えてしまう金額だった。

 趣味にするほどの興味・関心がない者からすれば、苦労して直してまで使うほど愛着はないため、サンクコストとしてバッサリ切り捨てて、長く使えそうな良いものを新調するのが、経済的には合理的だと判断した。

 そこでネックとなるのが、膨大な選択肢の中から、どれを選べば良いのかを自力で絞り込めるだけのこだわりがない点だ。

 そこで現状と自分の要望を書き出し、それに応えてくれそうな車種を、まずは自力で調べた後、餅は餅屋だと、チャリカス部だった同級生に、「ネガティブな意見」を含めて求めた。

前提条件を履き違えると意思決定を誤る。

 なぜネガティブな意見を求めるのか。購買意欲が削がれるのではないか。多くの方はそう思うかも知れないが、自分が都合の良く解釈できる、耳障りの良い情報ばかりを集めてしまうと、隠れたリスクを見落とす。

 前提条件が誤っている状態では、正しい意思決定に至ることはなく、結果として長期目線で最適解となる選択ができず、それは損失に他ならない。その考えのもと、利害関係がない相手に対して、敢えて客観的かつ批判的な意見を求めるよう意識している。

 これは個人に留まらず、組織にも言えることで、7万円給付or4万円減税のような政策が、国民感情を逆撫でしているのは、別に政治家に悪意がある訳ではないと考える。

 本来であれば、民意を吸い上げる役割を持つ筈の官僚が、保身に走り政治家に対して、耳障りの良い情報ばかりを並べることで、議論の際に前提条件を履き違え、最終的な意思決定を誤るのだろう。

 結果として、お金に困っているから夫婦共働きして家庭が多数派にも関わらず、共働きで世帯所得が底上げされると、あらゆる給付や補助金の対象から外され、お金に困っていない専業主婦(夫)世帯の方が、弱者救済政策の恩恵を受ける逆転現象が生じる弊害が出る。

 官僚や政治家は良い大学を出ている者が圧倒多数だから、高学歴エリートが周囲に居る環境が当たり前すぎて、意識しなければ自分が見ている世界の基準が、世間一般のそれとズレていることに気づけない。

 国民の半数は偏差値50以下で、大学を出ずに現場仕事をしているような属性の方な訳で、その人たちの考え方や、ものの見方、置かれている状況などは、少なくともザ・高学歴エリート官僚のそれよりもシビアな筈である。

 だからこそ本来であれば、そうしたエリート人生なら、決して交わることのないような人の意見を、積極的に取り入れなければ、正確な民意は汲み取れない。

完璧主義よりも、叩き台を詰めていく。

 スケールの違いこそあるものの、意思決定のクオリティを高めたいと本気で考えているのであれば、利害関係のない人から、客観的かつ批判的な意見を貰うのが賢しい判断だろう。

 話をチャリに戻す。初期段階は、軽量性、走行性能、価格帯の順でスクリーニングを行い、1時間掛からない程度で選んだクロスバイクを、あくまでも叩き台として意見を求めた。

 経験則でサンプル数n=1の域を出ないが、相応の知識や経験の裏付けもない状態で、膨大な選択肢の中から最初に選択したものが、後から振り返った時、すなわち長期目線での最適解だった試しがない。

 最初に直感で選んだものは、まぐれ当たりでもない限り、殆どがハズレだとオチが分かっていれば、知識や経験が十分に備わっていない初期段階で、完璧主義で時間や労力をかけて吟味するよりも、サクッと叩き台を決めて、そこから客観的な意見を求めて、素案を詰めていく方が効率的だろう。

 そもそも、平時であれば時間をかけて、知識や経験を身に付けながら納得感のある意思決定ができたかも知れないが、今回のように緊急を要する事態で、時間的猶予がない中で、できるだけ意思決定のクオリティを高めたい時は、自分よりもその道に詳しい人に批判的な意見を求める他ない。

 そうして、潜在意識では長く使う前提にも関わらず、スペックに現れない耐久性や、メンテナンス性を軽視していると指摘され、耐久性、メンテナンス性、軽量性の条件で絞り込み、素案をブラッシュアップした。

 結果として、当初の予算よりも安く、それでいてロードバイクメーカーのエントリーモデル的位置付けと、走行性能も期待できそうな車種に落ち着いた。ここまで、亀裂を発見してから、24時間強の出来事である。

 日本人は検討に検討を重ねるのが大好きだが、状況は刻一刻と変化するわけで、それに応じて最適解も変化する。いつまでも前提条件が変わらない保証などなく、検討の初期段階ではタイムリーでも、実行に移すときに陳腐化していては、そもそも検討するのが無駄になりかねない。

 だからこそ完璧主義をやめて、β版で反応を伺い、問題が見つかればその都度、軌道修正していく、スマホアプリの手法が、現代の意思決定としては理にかなっている。


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